潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)に対する抗炎症食(Anti-Inflammatory Diet)とは?

監修者:今井 仁(東海大学健康管理学|消化器内科 講師)
執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)



米国登録栄養士の宮﨑です。今回は潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)に対する抗炎症食(Anti-Inflamamtory Diet)について紹介させていただきます。

IBDに対する抗炎症食についてはIBDデーに合わせたアメリカ・オーストラリア・日本の管理栄養士による対談の中で、アメリカ・オーストラリアの管理栄養士のコメントに登場した食事です。

様々な抗炎症食

抗炎症食という言葉については特に海外の医療従事者やIBD患者さんの中で普及していますが、明確な定義はなく様々な意味合いで用いられているようです。

例えば、IBD-AID Diet (Anti-Inflammatory Diet for IBD)を提唱しているアメリカのUMass Chan Medical Schoolでは有益な腸内細菌を増やし、害のある腸内細菌を減少させることで腸内環境バランスを整えるものと定義しています(1)。

一方で、IBDに対しても、全粒製品、オリーブオイル、オメガ3などいわゆる地中海食に含まれるような抗炎症効果が高いとされる食品を含む食事を抗炎症食と言うこともあるようです(2)。

今回は2022年に発表された糞便微生物移植FMT(Faecal microbiota transplantation)と抗炎症食に関する研究で用いられていた抗炎症食の内容を紹介します(3)。

抗炎症食として推奨される食品(3)

この文献では抗炎症食として食品群ごとに、主に細胞や動物を用いた研究、そして疫学研究をベースに「摂取頻度に気をつける食品」と「積極的に摂取した方が良い食品」にわけて紹介しています。その一部を紹介いたします。

文献(3)を元に作成


ではこの表の中の食品の位置付けの根拠とされる研究をいくつか紹介したいと思います。

グルテン

  • 結腸炎を生じさせた動物モデルにおいて炎症の重症度を増加させることが示唆された(4)

牛肉や豚肉などの赤肉

  • 高タンパク質および/または赤身肉の摂取が有害な細菌代謝産物の増加を引き起こす可能性がある(5)
  • 動物由来の鉄分(ヘム)が動物モデルにおいて大腸炎の重症度を増加させる可能性がある(6)
  • 赤肉等の摂取が潰瘍性大腸炎の発症リスクを高める可能性がある(7)

白砂糖などの精製糖

  • 動物モデルにおいて、高脂肪・高糖質の食事が腸内細菌の乱れを促進し、腸管の透過性を増加させるなどし、免疫経路を活性化することが示唆された(8)(9)

なお、ナッツ類や野菜・フルーツにおいて皮や種子類を取り除くことを推奨している理由として、皮などを摂取することで、腸に有益な水溶性食物繊維の摂取量が減ることが挙げられています。

糞便微生物移植(FMT)と抗炎症食の効果

潰瘍性大腸炎患者さん66名をFMT+抗炎症食群と通常治療群に分けて効果の検証を行った結果、8週間後のFMT+抗炎症食群では潰瘍性大腸炎の臨床スコアや内視鏡による評価が改善し、深い寛解については48週目までFMTと抗炎症食群の方が通常治療群と比べて優れていることが示されました(3)。

今回の試験だけでは、潰瘍性大腸炎の改善がFMT、抗炎症食どちらが寄与していたかがわかりませんが、今後の抗炎症食の研究が期待されます。

まとめ

今回は抗炎症食について説明させていただきました。抗炎症食といっても様々な定義が存在すること、また最新の研究より抗炎症食の中身についても紹介させていただきました。

抗炎症食については海外で注目が高まってきていますが、追って日本でも概念が普及するかもしれません。

ご興味ある方はぜひ取り入れられる部分から日常生活に抗炎症食を取り入れてみましょう。

お勧めレシピ~グッテレシピから紹介~

タコとモッツァレラチーズのトマト和え
by miyuさん


フレッシュチーズの1つモッツアレラチーズとタコ、そしてアボカドとトマトをオリーブオイルで和えた一品です。

鯖の生姜焼き
by りおさん


鯖にはオメガ3系脂肪酸が豊富に含まれています。オリーブオイルで焼くところがポイントです。

参考文献:

  1. Huang S, Rutkowsky JM, Snodgrass RG, et al. Saturated fatty acids activate https://www.umassmed.edu/nutrition/ibd/ibdaid
  2. https://www.healthline.com/health/anti-inflammatory-diet-for-ulcerative-colitis
  3. Saurabh K, et al. Faecal microbiota transplantation with anti-inflammatory diet (FMT-AID) followed by anti-inflammatory diet alone is effective in inducing and maintaining remission over 1 year in mild to moderate ulcerative colitis: a randomised controlled trial. Gut. 2022 Dec;71(12):2401-2413.
  4. Menta PLR, Andrade MER, Leocádio PCL, et al. Wheat gluten intake increases the severity of experimental colitis and bacterial translocation by weakening of the proteins of the junctional complex. Br J Nutr 2019;121:361–73. 
  5. Yao CK, Muir JG, Gibson PR. Review article: insights into colonic protein fermentation, its modulation and potential health implications. Aliment Pharmacol Ther 2016;43:181–96. 
  6. Schepens MAA, Vink C, Schonewille AJ, et al. Dietary heme adversely affects experimental colitis in rats, despite heat-shock protein induction. Nutrition 2011;27:590–7. 
  7. Hou JK, Abraham B, El-Serag H. Dietary intake and risk of developing inflammatory bowel disease: a systematic review of the literature. Am J Gastroenterol 2011;106:563–73. 
  8. Galli C, Calder PC. Effects of fat and fatty acid intake on inflammatory and immune responses: a critical review. Ann Nutr Metab 2009;55:123–39. 
  9. TLR-mediated proinflammatory signaling pathways. J Lipid Res 2012;53:2002–13. d
監修者

今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師

消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。

執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士  

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。