
講演者:宮﨑拓郎(株式会社グッテ 代表取締役/米国登録栄養士・公衆衛生学修士)
2026年7月25日、潰瘍性大腸炎WEBセミナー「明日から話そう、潰瘍性大腸炎の治療と悩み」が開催されました。本セミナーは、ギリアド・サイエンシズ株式会社、EAファーマ株式会社の共催で開催され、本コラムではセミナーの内容を2回にわたってご紹介します。
第1回では、株式会社グッテ代表の宮﨑拓郎による講演「診察室では伝えにくい患者さんの本音―患者SNSやインタビューから見える納得できる治療選択への課題と工夫―」と、東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科/IBDセンターの松岡克善先生による講演「炎症性腸疾患診療における患者さんと医療従事者のギャップを考える」のうち、診察や治療選択に関わる内容をご紹介します。さらに、講演後のQ&Aは治療選択とコミュニケーションの両方を本記事にまとめました。
患者さんと医療従事者は「病気を良くしたい」という同じ目標を持っています。それでも、治療の目的や見通し、症状の受け止め方、生活への影響などにはギャップが生じることがあります。納得できる治療につなげるために、どのような情報を共有し、どう話し合えばよいのでしょうか。
※本記事は講演とQ&Aの内容をもとに、患者さん・ご家族に読みやすい形で再構成したものです。紹介する体験は個人の事例であり、すべての方に当てはまるものではありません。治療の効果、副作用、適切な投与期間は患者さんごとに異なります。薬の開始・減量・中止は自己判断で行わず、必ず主治医にご相談ください。
患者さんの体験から見えた、納得できる治療選択のポイント
ステロイド治療のメリットと課題
ステロイドは、潰瘍性大腸炎の強い炎症を速やかに抑えるために使われる重要な薬です。インタビューでも「症状がはっきり改善した」「効果が早かった」という声がある一方、ムーンフェイス、不眠、感染症への不安、長く使うことへの心配や、治療の見通しに関する情報の少なさが負担として語られました。治療効果だけでなく、生活上の負担も話し合うことが大切です。
4名の体験から見えた「納得感」の違い
同じステロイド治療でも、説明の受け取り方や医師との対話によって、治療への納得感には違いがみられました。
(※ステロイドの使用にあたっては、電子添文をご確認ください。)
患者1.効果はあったものの、副作用を相談できなかった方(60代女性)
症状は速やかに改善しましたが、不眠や見た目の変化、感染への不安があり、相談してもそれ以上つらさを話せなくなったといいます。薬が効いていても、副作用や生活への影響を相談できることが大切です。

出典:宮﨑拓郎講演資料
患者2.長期投与のリスクを後から知った方(20代女性)
詳しい説明がないまま約2年間ステロイドが続き、後から長期使用に伴うリスクを知って不安が強くなりました。転院後、減量計画のもとで終了できた経験から、治療の目的や期間、減量・終了の見通しを共有する大切さがうかがえます。

出典:宮﨑拓郎講演資料
患者3.治療の見通しを最初に共有できた方(20代男性)
治療開始時に「できるだけ早く減量する」という方針と、「再燃した場合には次の選択肢がある」ことを説明されました。減量への不安も医師と相談でき、先が見える安心感を持って治療を続けられました。

出典:宮﨑拓郎講演資料
患者4.後から治療の役割を理解できた方(20代女性)
減量すると再燃する「ステロイド依存」の状態となった後、IBD専門外来へ転院し、別の治療で寛解に至りました。振り返る中で、ステロイドが次の治療への橋渡しになったと捉えられるようになったといいます。

出典:宮﨑拓郎講演資料
4つの体験から、治療の目的や見通しを理解し、自分の意思や不安を医師へ伝えられたかどうかが、治療の受け止め方に関わることが見えてきました。
治療の納得感を高める3つの対話
インタビューからは、①「いつまで使うか、どう減らすか」という終わりの予定を確認する、②検査値に表れにくい生活の困りごとも伝える、③「効かなかったら次はどうするか」という次のステップを知っておく、という3つのポイントが見えてきました。

出典:宮﨑拓郎講演資料
ステロイド後の治療は、何を基準に選ぶ?
ステロイドで十分な効果が得られない場合や、減量に伴って症状が悪化する場合には、生物学的製剤やJAK阻害薬などが検討されることがあります。
どの薬が最も効くかを治療前に完全に予測することはできません。病状が強い時期は効果を優先し、良い状態を維持する治療では、投与方法や通院頻度、仕事・学校・育児との両立など、生活への取り入れやすさも大切な情報になります。

出典:宮﨑拓郎講演資料
妊娠・出産に関する情報との向き合い方
治療と妊娠に関する説明を「この治療を始めると一生妊娠できない」と受け止め、強い絶望を感じた方もいました。その後、専門医から妊娠を希望する時期に治療変更などを検討できると説明を受け、不安が軽くなりました。
妊娠・出産時の治療方針は薬や病状によって異なるため、自己判断で中止せず、早めに主治医へ相談することが重要です。
「手札がなくなる不安」と治療ロードマップ
治療が2剤目、3剤目へ進むと、「このまますべての薬が効かなかったら」と不安になり、「手札がなくなる」と表現した方もいました。一方、複数の治療を経験し、6剤目で寛解導入に至った方もいます。
現在地と一つ先、可能であれば二つ先までの大まかなロードマップがあると、「次がある」という安心につながります。
(※各薬剤の使用にあたっては、電子添文をご確認ください。)

患者さんと医療従事者の間にある5つのギャップ
松岡先生からは、患者さんと医療従事者の間で診察時に生じやすい認識のずれが紹介されました。医療従事者が医学的な情報を示し、患者さんが生活上の希望を伝えながら一緒に治療方針を決める考え方を、共有意思決定(Shared Decision Making:SDM)と呼びます。

出典:東邦大学医療センター佐倉病院 松岡克善先生作成
①病気の重みのギャップ
医師が一人の患者さんと向き合えるのは数分から十数分でも、患者さんは24時間365日、病気とともに生活しています。医療従事者にとって日常的な治療変更でも、患者さんには重い出来事として受け止められることがあります。
②症状のギャップ
便回数や血便だけでなく、排便切迫感、便漏れ、残便感、疲労感、食後の便意など、生活を左右する症状があります。1) 同じ症状でも働き方によって負担は異なるため、「その症状によって何ができなくなったか」まで共有することが大切です。
③治療目標のギャップ
症状が良くても内視鏡で炎症が残り、治療変更を提案されることがあります。医師は変更の目的や利点を説明し、患者さんも現在の生活や再燃に対する考えを伝え、治療目標をすり合わせることが必要です。
④生活の質(QOL)に関するギャップ
QOLへの影響を診察で話さない、または控えめに伝える患者さんがいることが海外研究で示されています。2),3) 「仕事に支障が出ている」「外出を控えている」など、生活への影響を具体的に伝えることが大切です。
⑤専門用語のギャップ
専門用語が患者さんに同じ意味で伝わっているとは限りません。例えば「有効率60%」は「症状が60%改善する」のではなく、「10人中6人で効果が期待される」という意味です。数字や専門用語は具体例で確認することが大切です。
診察を「対話」に変えるための工夫
宮﨑氏からは、診察時に患者さんが実践できる次の3つの工夫が紹介されました。
①体調の変化や質問をメモにする
②相談したいことに優先順位をつける
③「仕事を続けたい」「自己注射は怖い」など不安や希望を具体的にする
希望を伝えることも、自分に合う選択肢を一緒に考えるための材料になります。
松岡先生に聞く―治療選択・診察Q&A―
講演後のQ&Aでは、事前に寄せられた質問と当日の質問について、松岡先生に幅広くお答えいただきました。以下は、主な内容を発言の趣旨を損なわない範囲で読みやすく再構成したものです。
Q1.ステロイド治療では、何を確認するとよいですか?
A:ステロイドは、患者さんにとって不安の大きい薬だと思います。インターネットを見ると、骨粗しょう症や糖尿病など、さまざまな副作用が書かれています。ただ、こうした副作用の多くは、ステロイドを長期に使用した場合に問題になりやすいものです。
現在の潰瘍性大腸炎治療では、ステロイドは寛解を維持するために長く使い続ける薬ではなく、原則として中止を目指し、減量計画を立てて使用します。僕は治療を始めるときに、「何週間で減らして、いつごろ終了する予定です」と、出口まで患者さんにお伝えするようにしています。
もちろん、短期間の使用でも副作用が現れる可能性はあります。そのため、「いつまで使う予定なのか」「どのように減らしていくのか」「どのような変化があったら連絡すればよいのか」を確認してください。また、ステロイドについて不安に思っていることがあれば、その気持ちもそのまま主治医に伝えていただくとよいと思います。
Q2.生物学的製剤やJAK阻害薬などは、どのように選びますか?
A:現在は、生物学的製剤やJAK阻害薬などさまざまな選択肢があります。ただ、最初に患者さんへお話しするのは、「どの薬がその方に効くかは、実際に使ってみないと分からない部分があります」ということです。
薬は使えば必ず効くと思われる方もいらっしゃいますが、残念ながら、すべての患者さんに同じ薬が効くわけではありません。最初の薬が効かなければ、次の薬へ進みながら、その方に合う治療を探していきます。このことをあらかじめ知っておくと、最初の薬が効かなかったときのショックも少し和らげられると思います。
薬の候補は、病状などを踏まえて医師が検討します。そのうえで、飲み薬、自己注射、点滴といった投与方法や、生活への取り入れやすさについて患者さんと相談します。効果が得られた場合には長期間継続することも多いため、自分の生活に合った方法を一緒に考えることが大切です。
Q3.症状はなくても内視鏡で炎症が残っていたら、治療を変えるべきですか?
A:現在の治療目標としては、内視鏡で炎症がほとんどみられない「粘膜治癒」が重視されています。粘膜治癒まで達した方は、その後に再燃しにくいというデータがあります。ただし、粘膜治癒に至っていない方が全員再燃するわけではありません。少しでも再燃の可能性を下げるために治療を強化するか、今の生活状況も踏まえて経過を見るかを、主治医と一緒に考えることが大切です。
Q4.安定していても、より新しい薬へ変えたいときは?
A:「新しい薬のほうが、効果が高くて副作用も少ないのではないか」と思われる患者さんの気持ちは、よく分かります。ただ、新しい薬だからといって、すべての患者さんにとって現在の薬より優れているとは限りません。薬を変えたことで、かえって病状が悪くなる可能性もあります。潰瘍性大腸炎の治療では、現在の薬で病状が安定しており、副作用も問題になっていなければ、基本的にはその薬を続けることが大切です。
もちろん、変更したいと思う理由があるはずです。「副作用が心配」「投与方法が負担になっている」など、その理由を主治医に率直に伝えてください。現在の治療を続ける利点と、薬を変更することで生じる可能性のあるリスクを比べながら、よく相談して決めていただくのがよいと思います。
Q5.診察時間が短く、話しにくい雰囲気があります。どうすればよいですか?
A:診察時間が短いというのは、本当にそのとおりだと思います。僕の外来も、どうしても一人の患者さんにかけられる時間が限られています。そのなかで診察の時間を有効に使うためには、「今日はこれを聞きたい」ということを、あらかじめ整理しておいていただくとよいと思います。聞きたいことが複数ある場合は、優先順位をつけておくことも大切です。
一方で、医療者側にも話しやすい雰囲気をつくる責任があります。僕自身は、どれだけ忙しい外来でも、急いでいる雰囲気をできるだけ出さないようにしています。また、診察の最後には「ほかに何かありますか」と聞くようにしています。質問用紙などが用意されていない病院でも、聞きたいことをメモにまとめておくと、お互いにコミュニケーションが取りやすくなると思います。
Q6.インターネットやSNSで見つけた情報を、主治医に聞いてもよいですか?
A:もちろん、聞いていただいて大丈夫です。インターネット上の情報は玉石混交で、正しい情報もあれば、科学的な根拠が十分ではない情報もあります。また、人はどうしても、自分にとって都合のよい情報を選んでしまうことがあります。
ですから、「こういう情報を見つけたのですが、私にも当てはまりますか」「自分の治療に取り入れてもよいですか」と、主治医に確認していただくことが大切です。患者さんが自己判断で何かを始めて病状が悪くなるよりも、事前に相談していただいたほうが、医師としても安心です。
サプリメントについても同じです。そのサプリメントが潰瘍性大腸炎に効くとは言えなくても、現在の治療と一緒に使って問題がないかどうかはお話しできます。遠慮せずに聞いてください。
Q7.はっきり悪化しているとは言えない症状でも相談してよいですか?
A:基本的には、何でも伝えていただいたほうがよいと思います。「すっきり治ってはいないけれど、明らかに悪くなったとも言えない」という状態でも、遠慮せずにお話しください。
また、潰瘍性大腸炎では、お腹の症状だけでなく、皮膚や関節などに症状が現れることもあります。日常生活のなかで困っていることも含めて、病気や薬と関係があるかどうかは、僕たち医療者が判断します。患者さんご自身が「これは病気とは関係なさそうだから、言わなくてもよい」と決めずに、まずは伝えていただくことが大切です。
Q8.副作用かもしれない症状は、どう伝えればよいですか?
A:まずは、起きた変化をそのまま伝えてください。副作用は非常に大切な問題ですので、僕たち医療者も重視しています。
ただ、新しい薬を始めたあとに起きた変化が、すべて薬の副作用とは限りません。そこで自己判断で薬を中止してしまうと、実際には使えたかもしれない薬が使えなくなり、治療の選択肢を一つ失ってしまう可能性もあります。
まず患者さんから症状を教えていただき、それが薬の副作用なのか、病気によるものなのか、それ以外の原因なのかを医療者が医学的に判断します。そのうえで、薬を続けるのか、変更するのかを患者さんと相談していきます。自己判断で服薬を変えたり中止したりする前に、必ず主治医へ相談してください。
まとめ
納得できる治療とは、必ずしも「最初に選んだ薬が一度で効くこと」だけを意味しません。治療の目的、期間、生活への影響、次の選択肢について説明を受け、自分の不安や希望を伝えながら、決定の過程に参加できたかどうかも大切です。
症状や検査値だけでなく、「生活で何に困っているか」「何を大切にしたいか」を共有することで、対話は変えられます。「この治療はいつまで続けますか」「十分に効かなかった場合、次の選択肢はありますか」といった一言も対話の入口になります。医師が医学的な情報を伝え、患者さんが自分の生活や価値観を伝える。このように対話を重ねながら、一緒に治療方針を考えていくことが、共有意思決定(Shared Decision Making:SDM)です。
次回は、Gコミュニティに寄せられた潰瘍性大腸炎患者さん・ご家族の投稿を解析した研究から、治療中の患者さんの気持ちの変化についてご紹介します。
講演者・監修

松岡 克善 先生
東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科/IBDセンター 教授
2026年1月、世界のIBD専門家で構成されるInternational Organization for the Study of Inflammatory Bowel Disease(IOIBD)のメンバーに就任。同年4月より、厚生労働科学研究費補助金「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」の研究代表者を務める。
講演者

宮﨑 拓郎
株式会社グッテ 代表取締役/米国登録栄養士・公衆衛生学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラムの立ち上げや栄養指導に携わる。
現在は株式会社グッテ代表取締役として、炎症性腸疾患(IBD)や過敏性腸症候群(IBS)の患者支援事業に取り組むほか、患者向けコミュニティ運営、食事・栄養支援、医療者との共同研究・情報発信などを行っている。講談社「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著で出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。
共催:ギリアド・サイエンシズ株式会社、EAファーマ株式会社
参考文献
1.Matsuoka K, et al. Association of ulcerative colitis symptom severity and proctocolectomy with multidimensional patient-reported outcomes: a cross-sectional study. J Gastroenterol. 2023;58:751–765. doi:10.1007/s00535-023-02005-7.
2.Rubin DT, et al. International Perspectives on Management of Inflammatory Bowel Disease: Opinion Differences and Similarities Between Patients and Physicians From the IBD GAPPS Survey. Inflamm Bowel Dis. 2021;27:1942-1953.
3.Rubin DT, et al. Communication Between Physicians and Patients with Ulcerative Colitis: Reflections and Insights from a Qualitative Study of In-Office Patient-Physician Visits. Inflamm Bowel Dis. 2017;23:494-501.