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潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)患者のための腸内環境と便通コントロール【前編】〜プロバイオティクス・プレバイオティクスから超加工食品との関係まで〜

執筆者:斎藤恵子(管理栄養士・機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者)

私たちの腸は想像以上に広く、細菌の世界は広大です

まずは、私たちの腸とそこに住む細菌たちについての基本的な事実をご紹介します。
驚くべきことに、人間の腸管の表面積は広げると約200平方メートルにも及びます。これはなんと、テニスコート1枚半くらいに相当する広さです。 

腸内には、数十兆個もの細菌を中心とした多様な微生物が生息しています。その数や構成には個人差があり、食事や年齢、薬剤、病気などによって変化します。

私たちは毎日の健康状態を知るバロメーターとして「便」をチェックしますが、この便の成分はどうなっているのでしょうか。

便の大部分(70〜80%)は水分でできています。そして、残りの固形成分のうち、実に3分の1から4分の1は腸内細菌(生きた菌や死んだ菌)で構成されているのです。
便には水分のほか、消化されなかった食物成分、腸管から剥がれ落ちた細胞、腸内細菌などが含まれています。便の状態は、食事、水分摂取量、腸管の動き、炎症や薬剤など、さまざまな要因の影響を受けます。

生命を守るバリア「腸内フローラ」の働き

腸内細菌は、同じ種類ごとに群がり、腸の壁に張り付いて生息しています。その様子がまるで多種多様な花が咲き乱れるお花畑のように見えることから、「腸内細菌叢」や「腸内フローラ」と呼ばれています。

実は、私たちの体を病気から守る全身の免疫細胞の約70%が、この腸に集まっています。腸内細菌は、私たちの生命を守るための「強力なバリア」として働いているのです。
このバリアは、自然治癒力を養ったり、生きていくために必要なビタミンやタンパク質を合成したり、食べ物の消化吸収を助けたり、さらには外から入ってきた病原菌から体を守り、有害物質を排除するといった、非常に重要な役割を担っています。

腸内細菌には、健康に有益な働きをするもの、状況によって有害に働くもの、役割が十分に分かっていないものが存在します。近年では、特定の菌を一律に「善玉菌」「悪玉菌」と分類するのではなく、腸内細菌叢全体の多様性や、菌が産生する代謝物とのバランスが重要と考えられています。

そして、一般的に「善玉菌」と呼ばれる細菌は、私たちが食べる食物繊維などを栄養源として増殖し、短鎖脂肪酸の産生などを通じて腸内環境の維持に役立つと考えられています。一方で、「悪玉菌」と呼ばれる細菌が優位な状態になるなど、腸内細菌叢のバランスが崩れると、腸内環境に影響を及ぼすことがあります。

さらに、腸内細菌叢のバランスは、偏った食事や食べすぎ・飲みすぎだけでなく、お薬(抗生物質など)の服用、細菌汚染や細菌感染、日々のストレス、過労、気候や温度の変化、そして加齢など、生活の中の様々な要因によっても簡単に崩れてしまうことが分かっています。

IBD(潰瘍性大腸炎・クローン病)患者さんの腸内環境の特徴

IBD患者さんでは、腸内細菌叢の多様性の低下や、一部の酪酸産生菌の減少、特定の大腸菌の増加などが報告されています。ただし、こうした変化はすべての患者さんに共通するものではなく、炎症、治療薬、食事、病変部位などの影響も受けます。腸内細菌叢の変化が炎症の原因なのか、炎症によって生じる結果なのかについても、まだ十分には分かっていません。

(北岡建樹:チャートで学ぶ輸液療法の知識,p84,南山堂、日本人の食事摂取基準(2025年版))

乱れてしまった腸内環境を整え、炎症を抑えやすい状態を作るためには、食事からのアプローチが欠かせません。そのための3つの重要なキーワードをご紹介します。

1.Probiotics(プロバイオティクス)

プロバイオティクスとは、適切な量を摂取したときに健康上の利益をもたらすことが確認された、生きた微生物を指します。
ヨーグルトなどの発酵食品に生きた微生物が含まれる場合がありますが、すべての発酵食品がプロバイオティクスに該当するわけではありません。

具体的な食品としては、ヨーグルト、ケフィア、味噌、納豆、乳酸菌飲料、ぬか漬け、キムチ、甘酒(米麹)などの身近な食品が挙げられます。例えば納豆にはビタミンK2や発酵代謝産物が含まれ、キムチには腸内細菌の多様性を改善する作用が期待できます。

IBDに対するプロバイオティクスの研究結果は、病型や菌株、製剤によって異なります。潰瘍性大腸炎では一部の製剤について有効性を示唆する研究がありますが、結果は一貫しておらず、クローン病では有効性を支持する十分な根拠は得られていません。標準治療の代わりに使用するものではなく、利用する場合は主治医に相談することが重要です3)。

プレバイオティクスとは、腸内の特定の微生物に利用されることによって、健康上の利益をもたらす食品成分です。
代表例として、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イヌリンなどがあります。ただし、食物繊維にはさまざまな種類があり、そのすべてがプレバイオティクスに該当するわけではありません。

プレバイオティクスを摂ることで有益な発酵が促され、短鎖脂肪酸(酪酸など)の合成が高まります。特にフラクトオリゴ糖は酪酸産生菌の増加に関与すると言われています。この短鎖脂肪酸が作られることで、粘膜の免疫機構が制御され、抗炎症作用が期待できるのです。

シンバイオティクスとは、「プロバイオティクス(有益な菌そのもの)」と「プレバイオティクス(菌のエサになる成分)」を同時に組み合わせて摂取することで、腸内細菌のバランスを良くしようとするアプローチです。これにより短鎖脂肪酸が効率よく産生され、消化管の蠕動運動や血流の改善、粘膜上皮へのエネルギー供給に繋がります。

超加工食品(UPF)と腸内細菌の関係についてわかっていること

日々の食事で腸内環境を良くするものを摂る一方で、「何を避けるべきか」も非常に重要です。近年、大規模なPURE研究などの解析により、IBDとの関係が注目されているのが「超加工食品(Ultra-Processed Foods:UPF)」です4)。

超加工食品とは、工場で工業的なプロセスを経て作られ、保存料や人工甘味料、乳化剤などの食品添加物を多く含む食品のことです。
具体的には、以下のようなものが該当します。

・ソーセージやベーコンなどの加工肉
・スナック菓子
・菓子パン
・インスタント麺、カップ麺
・ファストフード
・清涼飲料水 など

観察研究では、超加工食品の摂取量が多い人ほど、その後にIBDを発症する割合が高かったことが報告されています。
ただし、この結果だけで超加工食品がIBDを直接引き起こすと判断することはできません。また、既にIBDと診断された患者さんの再燃や寛解維持にどの程度影響するかについては、まだ十分な研究がありません。
超加工食品そのものがIBDを引き起こすと証明されたわけではなく、食生活全体や生活習慣など様々な要因が関係していると考えられています。

まとめ:未来の腸内環境のためにできること

今回は、腸内細菌の驚くべき働きから、IBD患者さんの腸内環境の特徴、そしてそれを整えるための食のアプローチと超加工食品について学びました。
完璧な食事を目指す必要はありません。体調や病状に合わせて、加工度の低い食品や無理なく摂取できる食物繊維を取り入れることは、日々の食生活を整える一つの方法です。

ただし、食事は薬物治療の代わりにはならず、個々の症状に合わせて調整することが重要です。IBDの食事は、病型、活動期か寛解期か、狭窄や手術歴の有無、現在の症状によって適した内容が異なります。食物繊維や発酵食品が症状に合わない場合もあるため、大きく食事を変更するときは、主治医やIBDの栄養支援に詳しい管理栄養士に相談してください。

🍀今日からできる3つのポイント🍀

✓ 主食・主菜・副菜を意識して加工度の低い食事を増やす

✓ 発酵食品や食物繊維は体調に合わせて少しずつ取り入れる

✓ 食事だけに頼らず、薬物治療を続けながら主治医や管理栄養士と相談する

《IBDの食事や栄養について、継続して情報を受け取りたい方へ》

執筆者

斎藤恵子先生
管理栄養士・機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者

管理栄養士として東京山手メディカルセンター(旧社会保険中央総合病院)、東京科学大学病院(旧東京医科歯科大学病院)で、長年にわたり炎症性腸疾患(IBD)の患者さまを中心に消化器疾患、糖尿病、高血圧、腎臓病など様々な患者様の栄養指導に携わり、健康と食生活の支援を行う。
また、「安心レシピでいただきます!―潰瘍性大腸炎・クローン病の人のためのおいしいレシピ」などの著書も執筆。

参考文献

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