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潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)患者が押さえておきたい脂質のポイント

執筆者:斎藤恵子(管理栄養士・機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者)

IBD(炎症性腸疾患)の患者さんにとって、毎日の食事で最も頭を悩ませるのが「脂質」ではないでしょうか。「脂質=炎症を悪化させる」というイメージが強く、極端な制限をしてしまいがちですが、脂質は体にとって不可欠な栄養素でもあります。

この記事では、令和8年1月20日に行われた第3回 IBDのための食と栄養セミナー「IBDと脂質・摂取と工夫」の内容をもとに、脂質の役割から、なぜ制限が必要なのか、そして最新の知見に基づいた「賢い脂質の摂り方」について詳しく解説します。

脂質は「敵」ではない? 知っておきたい大切な役割

脂質は1gあたり約9kcalと、糖質やたんぱく質(約4kcal/g)に比べて非常に効率の良いエネルギー源です 。しかし、その役割はエネルギー供給だけではありません。

・細胞の材料:私たちの体を構成する細胞膜の構造を維持し、機能させるために不可欠です 。

ホルモンの材料:性ホルモンや副腎皮質ホルモン、消化を助ける胆汁酸の材料になります 。

ビタミンの吸収:脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収や輸送を助けます 。

体の保護:皮下脂肪として体温を保持したり、外部の衝撃から内臓を守るクッションの役割を果たしたりします 。

脂質が不足すると、エネルギー不足や、血管や細胞膜が弱くなったり、皮膚がかさかさしたり、粘膜が弱くなることもあります 。

なぜIBDでは「低脂質」が推奨されるのか

IBD、特にクローン病において低脂質食が推奨されるのには、いくつかの明確な理由があります 。

1.再燃のリスク
  日本の報告では、クローン病は脂質摂取量が1日30gを超えると再燃率が高まるとされています 。

2.腸管の安静
  脂質は腸管の運動を活発にするため、炎症がある時期は腸を休ませる必要があります 。

3.消化吸収の負担
  炎症により胆汁酸の循環がうまくいかないと、脂質をうまく消化できず、脂肪性下痢を引き起こしやすくなります 。

4.炎症の誘発
  脂質の種類によっては、炎症を直接引き起こすものがあります 。

ただし、近年の研究では「1日30g未満」という数字に強い科学的根拠が乏しいとも言われており、生物学的製剤などの治療が進歩した現代では、「量より質(脂肪酸バランス)」が重要視されています 。

脂質にはいくつかの種類があり、IBDのリスクを高めるものと、逆に抑える可能性があるものがあります 。

控えたい脂質

・飽和脂肪酸:肉の脂身やバターなどに多く、IBDの発症リスクを高める可能性が示唆されています 。

・n-6系多価不飽和脂肪酸:サラダ油(リノール酸)など。摂りすぎはアレルギー症状や老化を促進させる可能性があります 。

・トランス脂肪酸:マーガリンや菓子パン、ファストフードに含まれ、心疾患リスクの上昇などが懸念されています 。

積極的に選びたい脂質

・n-9系脂肪酸:オリーブ油など。IBDの発症リスクを下げる可能性があるという報告があります 。

・n-3系脂肪酸:魚油(EPA・DHA)や亜麻仁油など。炎症を抑える働きが期待されますが、寛解維持目的のサプリメント補給については、ガイドラインによって見解が分かれています 。

実践! 脂質を抑えて美味しく食べる工夫

「揚げ物を一生食べられない」と絶望する必要はありません 。調理法や選び方の工夫で、脂質の摂取量は大幅に変わります 。

調理法の工夫

脂質の量は 「揚げる > 炒める > 煮る・蒸す > 焼く・茹でる」 の順に少なくなります。

  • 肉の脂身は取り除く湯通しして油を落とすといった下ごしらえが有効です 。
  • どうしても揚げ物が食べたい時は、衣を薄くするパン粉はきめ細かいものを選ぶなどの工夫で吸油率を下げられます 。

MCTオイル(中鎖脂肪酸)の活用

脂質を制限するとエネルギー不足になりがちですが、そこで役立つのがMCTオイルです 。
MCTオイルは、一般的な油(長鎖脂肪酸)と異なり、胆汁や膵液がなくても消化・吸収されやすく、素早くエネルギーになります 。炎症がある時期のエネルギー補給として非常に有効な選択肢です 。

外食や買い物のヒント 

栄養表示をチェック:100gあたりか1食あたりかを確認し、まずは脂質量に注目しましょう 。
和食を選ぶ:和風メニューは比較的脂質が少なく安心です 。
柔軟に考える:1食で脂質が増えてしまったら、前後の食事で調整するなど、1日の中でバランスをとる「1食豪華主義」も一つの方法です 。

おわりに ― 0か100かではなく、柔軟な付き合いを

「発症してから、一度も揚げ物食べていない。」「退院してから鶏肉以外食べていない。」など、白か黒かという極端な考えになりがちですが、それは栄養不足やQOLの低下を招くリスクがあります。大切なのは、自分の病状(活動期か寛解期か)に合わせて、脂質の「量」と「質」をコントロールすることです 。

食べることは、治療であると同時に人生の楽しみでもあります。管理栄養士などの専門家の助けを借りながら、あなたの体に合った「心地よい食べ方」を見つけていきましょう。

執筆者

斎藤恵子先生
管理栄養士・機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者

管理栄養士として東京山手メディカルセンター(旧社会保険中央総合病院)、東京科学大学病院(旧東京医科歯科大学病院)で、長年にわたり炎症性腸疾患(IBD)の患者さまを中心に消化器疾患、糖尿病、高血圧、腎臓病など様々な患者様の栄養指導に携わり、健康と食生活の支援を行う。
また、「安心レシピでいただきます!―潰瘍性大腸炎・クローン病の人のためのおいしいレシピ」などの著書も執筆。

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