執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
米国登録栄養士の宮﨑です。
本日は多くの方から質問を受けることが多い、食べてすぐにお腹がゆるくなったり、下痢になる理由について解説します。
過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)などの病気を持つ人ではよく食物を食べた直後に腹痛や便意を催すことがあるのではと思います。
これは、胃―大腸(結腸)反射 (Gastro-colic reflex) が原因となることが多いと言われています。
胃―大腸(結腸)反射 (Gastro-colic reflex) とは?
通常、食べ物が小腸・大腸まで届くには、少なくとも4時間以上かかると言われています。
しかし、多くの方が、食べた直後に便意を催すことを経験しています。これは、胃―大腸(結腸)反射と呼ばれるもので、食物がトリガーとなり、大腸が強く収縮し、排泄に繋がるというものです。
この胃ー大腸反射は過敏性腸症候群(IBS)の病態と関係があると言われています。IBS患者さんでは内臓の感受性が高まっているため、この胃と結腸の反応が過剰になり、腹痛や下痢、腹部膨満感などにつながると考えられています(1)。
また、IBS-C(便秘型)の方では逆に排便に役立つこともあり、反射が起こりやすい朝に食事を取られる方も多いです。
他方、炎症のない寛解期の潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)患者さんでも経験される方が多い印象です。
対処法は?
この胃-大腸反射を軽減するための科学的根拠のある対処法は存在していないかと思いますが、いくつか推奨されていること(2)があります。
- 反射を軽減するために食事の量を減らすことが重要と考えられています。少しずつ食べる、また一度に食べる量を少量に抑え食事をする回数を増やすことがおすすめです。
- 脂質が多く含まれるものを摂取すると、より反射が起きやすいと言われています。例えば、ラーメンを食べるときにスープを飲まない/飲む量を減らすことも一案です。
- 冷たい飲み物や食べ物を一気に飲んだり食べたりすることも控えましょう。
- IBS-C(便秘型)では、反射が排便を助けることが多くあります。反射が起こりやすい朝に健康的な脂肪を用いた食事・食品(ピーナッツバター、オリーブオイルを用いた卵焼きなど)と冷たい水を飲むことがおすすめです。
まとめ
以上、食事の直後に起こる腹痛や下痢などの消化器症状について、そのメカニズムや対処法を解説しました。
はじめはびっくりすると思いますが、少しずつ食べた直後に便意を催しやすい食品なども把握できてくるかと思います。
また消化器症状が出るとしてもどうしても食べたい!という食品もあるかもしれません。
食事を制限することの精神面のストレスは大きいので、食べ方や摂取頻度に工夫するなどして、食べる楽しみと消化器症状軽減のバランスを取る方法を模索してみてください。
監修者
今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師
消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。
執筆者
宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。
参考文献
⑴ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK549888/
⑵ https://www.monashfodmap.com/blog/eating-and-ibs-symptoms/