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2024年9月27日

小腸内細菌異常増殖症(SIBO)とは?②診断方法と主な薬物治療

監修者:今井 仁(東海大学健康管理学|消化器内科 講師)
執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)



近年、腹痛や下痢・便秘、膨満感などの消化器症状に悩む人や、この領域の研究者や医療従事者の間で小腸内細菌異常増殖症(SIBO)が注目を集めています。
SIBOについてはまだわかっていないことも多く様々な研究が行われており、徐々に診断の方法や治療指針が示されるようになってきました。今回はこのSIBOの診断方法と薬物治療について紹介します。

また前回の記事ではSIBOの病態や他の疾患との関連、主な症状についてまとめましたのでご興味ある方はこちらをご確認ください。

小腸内細菌異常増殖症(SIBO)とは?①原因、他疾患との関連、主な症状

監修者:今井 仁(東海大学健康管理学|消化器内科 講師)執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士) 今回の記事では多くの方が目にする機会が増えてきた小腸内細菌異常増殖症(…



SIBOの診断について

SIBOの診断に関しては、まだ”ゴールドスタンダード”と呼ばれるような確立された手法はないと言われており、実際日本においてSIBOの確定診断方法として、健康保険でカバーされたものはありません。

そのような中、海外や日本においても主に上部内視鏡検査による腸吸引液の定量培養と呼気試験という手法でSIBOか否かを判定するのが一般的です(1)。  

内視鏡を用いた腸吸引液の定量培養

腸吸引液の定量培養は内視鏡を用いて行われます。具体的には小腸の上部から内視鏡を用いて採取した液体を定量培養することにより行われます。

しかし、この培養した細菌数がどの程度に達した場合にSIBOと判定すべきかについては現在も議論が続いています。

最近では、北米の研究者によるコンセンサスとして、十二指腸や空腸から採取した液体中に存在する細菌のコロニー数が1mlあたり103コロニー形成単位(CFU/mL)以上である場合、小腸内細菌異常増殖(SIBO)と診断されるという指針が示されました(2)

この検査のメリットとしては腸の吸引液を用いて直接的にSIBOか否かの判定ができることです。一方、内視鏡検査という痛みや苦痛などの負担を伴う検査を行わなければならない点が患者さんにとってのデメリットとなります。

     

呼気検査

痛みや苦痛などの負担を伴わない非侵襲的な検査として腸吸引液の代替手段として用いられているのが呼気検査です。呼気検査は、体内で水素が生成される原因が消化管の微生物による炭水化物の発酵であるという前提に基づいています(3)

呼気検査に用いられる炭水化物はグルコース、ラクツロースで、摂取後90分以内に基準値よりも20ppm以上増加した場合にSIBOと判定されます。

呼気検査の具体的なプロセスは以下となります(3)

  1. 抗生物質の使用は4週間避け、消化管運動促進薬や下剤の使用は少なくとも1週間控える。
  2. 検査前日には、発酵性のある食品(例えば複雑な炭水化物)を避け、8〜12時間の絶食を行う。
  3. 75gのグルコースまたは10gのラクツロースを口から摂取し、90分以内に呼気中の水素を測定。なお検査中は喫煙を避け、身体的な負担を最小限に抑える。

呼気検査のメリットは内視鏡を用いる検査と比べて痛みや苦痛などの負担が小さいことです。一方、検査の前に抗生物質等の使用を控えることなどにより、何かしらの症状がすでにある場合は症状悪化につながる可能性があります。さらに、内視鏡を用いた腸吸引液の定量培養よりも精度も低くなります。

SIBOに対する薬物治療

SIBOの患者に対しては、細菌の過剰増殖を抑え、症状を改善することを目的として抗生物質の使用がガイドラインで推奨されています(3)

具体的にはこれまでの研究などに基づいて以下の抗生物質が推奨されています。

             SIBOの治療に推奨される抗生物質

                             (3)のTable5を一部改変

一方で、抗生物質の投与については耐性菌の発生や抵抗力が弱ることによる日和見感染症、副作用などのリスクもあるため慎重な検討・判断が求められます。

主治医の先生と相談しながら最適な治療法を模索しましょう。

まとめ

以上、SIBOの診断方法と薬物治療について紹介しました。現在日本においてはSIBOの診断が保険適応となっていないため患者さんの負担が大きくなってしまいますが、主に内視鏡による腸吸引液の定量培養と呼気検査が行われます。診断を検討される場合は、費用や検査の感度、痛みや苦痛などの負担を考慮しご自身にとって最適な診断方法を選択しましょう。

またSIBOと診断された後の薬物治療としては抗生物質の使用が勧められます。一方で抗生物質の使用は様々なリスクも伴うため、主治医の先生に相談しながら治療を選択することが大切です。

次回はSIBOに対する食事療法について詳しく解説していきます。

参考文献:

(1)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/apt.12456
(2)https://journals.lww.com/ajg/abstract/2017/05000/hydrogen_and_methane_based_breath_testing_in.25.aspx
(3)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32023228/

監修者

今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師

消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。

執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士  

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

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