栄養面に考慮した植物油の選び方は? 〜一般の方からIBD(潰瘍性大腸炎・クローン病)、IBS(過敏性腸症候群)の方向け~

監修者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
執筆者:井本 かおり(管理栄養士)

私たちの食生活には欠かせない油。食品にあっては食べ物をおいしくしたり、食べやすくしたりするなどの役割も担っていますが、摂りすぎると肥満や、動脈硬化の原因になるとも言われています。
今回のコラムでは、植物油の栄養面についてお話します。

管理栄養士
かおりさん

まずは油の栄養価の大部分を占める脂質の役割について説明をします。

脂質の役割

油の栄養価の大部分を占める脂質は、三大栄養素(糖質、たんぱく質、脂質)の中でも最もエネルギーの高い栄養素です。
脂質の役割には、

エネルギー源:脂質は1gで9kcalと少量でも大きなエネルギーを確保できるのが特徴。
細胞膜の構成:細胞膜は脂質に含まれるコレステロールやリン脂質が主成分。
ホルモンの合成:脂質は、ホルモンの合成に必要な原料として使われる。
栄養素の吸収:脂質は、脂溶性ビタミン(A、D、E、Kなど)の栄養素の吸収を助ける。

といった働きがあります。

また、体の中で作ることが出来ず、食事からとらなければならない必須脂肪酸や、とりすぎるとLDLコレステロール増える飽和脂肪酸など脂質に含まれる脂肪酸の種類によって体に及ぼす影響が異なります。

そのため、脂質の量だけではなく脂肪酸の種類とバランスにも注意が必要です。

植物油に含まれる主な脂肪酸の種類

油脂類は主に飽和脂肪酸、n-3系多価不飽和脂肪酸、n-6系多価不飽和脂肪酸、n-9系一価不飽和脂肪酸の4種類の脂肪酸と呼ばれる成分が組み合わさって出来ています。主な脂肪酸を含む植物油は下記の図の通りです。

主な脂肪酸を含む植物油

参考:日本食品標準成分表2020年度版(八訂)

どの脂質を摂ればよいか?

積極的に摂ってもよい油

n-3系脂肪酸

必須脂肪酸で、動脈硬化の予防につながると考えられています。
青魚など魚類に多く含まれますが、魚の摂取量が減った現代の食事では意識的に摂らないと欠乏しがちです。
魚が苦手な方はn-3系を多く含む植物油で補うといいでしょう。

n-9系一価不飽和脂肪酸

必須脂肪酸ではないので「積極的に摂るべき油」とまでは言えませんが、動脈硬化にともなう心筋梗塞・脳梗塞・高血圧など、生活習慣病の予防に役立つといわれています。

摂る量を控える方がいい油

n-6系多価不飽和脂肪酸

体内で作ることができないため食事から摂取する必要がある必須脂肪酸ですが、現代の日本人の食事で最も摂取機会が多く、特に揚げ物や炒め物などが続くと摂りすぎる傾向にあります。

なるべく摂らないほうがいい油

飽和脂肪酸

循環器疾患や肥満のリスク要因の1つで目標量の上限が決められています。

トランス脂肪酸

飽和脂肪酸同様、冠動脈疾患に関与する危険因子の1つと考えられています。

適度な脂質の量は?

一般的な成人の脂質の量は以下の表の通りです。

脂質の食事摂取基準(男性)
脂質の食事摂取基準(女性)

潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)の方向けのPOINT

活動期

脂質は糖質やたんぱく質に比べて消化管の動きを活発にするため、腸管の安静を図る活動期や絶食から食事を再開する場合は低脂質食が望ましいと考えられています。
活動期で重症の場合は1日30g未満、同じ活動期でも軽度の場合は40g未満の脂質量にするなど、症状に合わせて脂質の量を調整します。

寛解期

脂質の量がIBDの再燃に関与するという科学的根拠はあまりないため、寛解期では一般的な人に比べてやや少なめ~同程度(脂質エネルギー比:20~25%)にします。

種類

n-6系多価不飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取がIBD発症リスク増加に関係する事や、飽和脂肪酸の摂取が潰瘍性大腸炎の再燃リスクに関連することから、
加熱調理にはn-9系一価不飽和脂肪酸が含まれているオリーブオイルやキャノーラ油をつかいましょう。n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含むあまに油やえごま油は加熱調理には向かないので、ドレッシングなどに使いましょう。

過敏性腸症候群(IBS)の方向けのPOINT

IBSの症状をきたしやすい食事の1つに脂質を多く含む食事が挙げられます。脂質で症状が出る場合は脂質の多い食事を控える必要はあります。その場合、一般的な人に比べてやや少なめ~同程度(脂質エネルギー比:20~25%)にします。

~グッテレシピからレシピ紹介~

今回はグッテレシピの中から植物油を生かしたレシピを3つご紹介します。

まとめ

2回に分けて主な植物油の特徴や栄養価についてまとめましたがいかがだったでしょうか。
たくさんの種類があり違いが分かりにくい植物油ですが、風味や仕上がり、脂肪酸の違いにも意識して探してみてくださいね。

遷移後少ししてからメルマガ登録のポップアップが表示されます。
監修者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

執筆者

井本かおり
管理栄養士|日本栄養士会食
物アレルギー分野管理栄養士

管理栄養士として、病院、行政(学校給食)、こども園で主に献立作成、栄養指導、食育などに従事。家では過敏性腸症候群(IBS)の息子と一緒に低FODMAP食事療法を実践中。忙しい時にでも簡単においしく出来るレシピが得意です。

参考文献
  1. 日本食品標準成分表2020年度版(八訂)
  2. 日本人の食事摂取基準(2020年版)
  3. 潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ(講談社)