グッテレシピ

潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)の基礎知識と、食事・栄養との大切な関係

執筆者:斎藤恵子(管理栄養士・機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者)

IBD(Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患)は、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)という2つの疾患を含む慢性の腸の病気です。どちらも腸管に炎症が起こり、腹痛や下痢、血便、倦怠感といった症状が長期的に続きます。若い年代での発症が多く、日常生活や仕事、学業への影響も大きい疾患ですが、治療法や栄養管理の進歩により、今では多くの方が症状をコントロールしながら生活を送っています。

この記事では、9月26日に行われたIBDのための食と栄養セミナー「IBDと食事・栄養の基礎知識」の内容をもとに、IBDの基本的な理解から、食事との関係、そして治療の土台となる栄養管理について、最新の知見とともにわかりやすく解説します。

IBDとはどのような病気なのか

IBDには「潰瘍性大腸炎(UC)」「クローン病(CD)」という二つの病気が含まれます。名前は似ていますが、炎症が起こる場所や病気の進み方には明確な違いがあります。

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に浅いびらん・潰瘍が広く広がる病気で、炎症は通常、直腸から連続的に上部へ向かって広がっていきます。

一方クローン病は、口から肛門まで消化管のどこにでも発生し、しかも腸の壁の深いところまで炎症が及ぶことが特徴です。いわゆる「縦走潰瘍」や「敷石状病変」といった深い潰瘍ができることもあります。

どちらの病気でも、腹痛、下痢、血便、体重減少、倦怠感などの症状がみられるため、初期には違いがわかりにくいこともあります。しかし、治療方針や注意すべき栄養のポイントが異なるため、自分の病気のタイプや炎症の場所をきちんと理解しておくことが大切です。

また、IBDはいずれも原因が完全に解明されていない難病とされていますが、近年の研究では、遺伝的要因と食事を含む環境因子が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

IBDと食事の関係 ― 病気を悪化させるのは何か?

「何を食べればいいですか?」「何を避ければ再燃しませんか?」
IBDと診断された方が最初に抱く疑問のひとつです。食事と病気の関係は、多くの患者さんにとって非常に気になるテーマでもあります。

これまでの研究からは、IBDの発症や再燃には、ある程度の食事パターンが影響している可能性が示されています。特に、飽和脂肪酸の多い食事、糖質の多い加工食品、ファストフード、アルコールなどはリスクの上昇に関係すると報告されています。一方で、食物繊維やビタミンD、コーヒーなどは炎症を抑える方向に働く可能性があるとされています。

ただし、重要なのは「特定の食品が必ず炎症を起こす」というわけではないということです。同じ食べ物でも、患者さんごとに症状の出方や許容度は全く異なります。そのため、食事は“禁止リスト”として覚えるのではなく、自分の体に合ったものを探すプロセスが必要になります。

最新の研究では、患者さんが再燃を恐れるあまり、必要以上に多くの食品を避けてしまうことで、かえって低栄養のリスクが高まることも研究で示唆されています。

つまり「多少の刺激で症状が悪化するかもしれない」という不安が、長期的には体力の低下や栄養不足につながり、結果的に病気のコントロールを難しくしてしまう可能性があるのです。

IBDの大きな特徴のひとつは、栄養障害を起こしやすいという点です。特にクローン病では、体重減少、低たんぱく血症、鉄欠乏、ビタミン・ミネラル不足などが高い頻度でみられます。

では、なぜIBDではこれほど栄養状態が悪くなりやすいのでしょうか。

ひとつは、症状による「食べられない」という状態です。腹痛や下痢が続くと、食事を控えてしまうのは自然な反応ですし、実際に食べると症状が悪化することもあります。また、ネットの情報や周囲からのアドバイスを受けて、患者さん自身が必要以上に制限してしまうこともあります。

もうひとつは、「吸収のしにくさ」です。腸そのものに炎症があるため、本来吸収されるべき栄養素がそのまま通過してしまったり、小腸の病変や切除によって吸収面積が減少することで、ビタミンB12や脂溶性ビタミンなどが不足しやすくなります。

さらに、炎症が強い時期には体内でエネルギーの消費が増えるため、必要な栄養量が通常より高まります。手術後の回復期でも、体が多くの栄養を必要とします。

こうした「食べられない」「吸収できない」「必要量が増える」という複数の要因が重なることで、IBDの方はどうしても栄養不足に陥りやすくなります。

消化管のしくみを知ると、食事の工夫が見えてくる

IBDでは、腸のどの部分に炎症があるかによって影響を受ける栄養素が異なります。たとえば、ビタミンB12は回腸末端で吸収されるため、そこに病変があるクローン病の場合は不足しがちです。カルシウムや脂溶性ビタミンは、小腸の上部〜中部で吸収されます。

また、下痢が続くと脱水が心配になりますが、そもそも1日に7〜9リットルもの水分が小腸に流れ込んでいることをご存じでしょうか。その約80%が小腸で吸収され、残りが大腸で吸収されます。

炎症により吸収が追いつかなくなると、便として水分が多く排出されるため、下痢が続くときはこまめな水分と電解質の補給が欠かせません。

栄養の吸収場所を知ることは、血液検査で不足している栄養素の理由を理解する助けにもなり、治療や食事調整にも役立ちます。

なぜIBDでは「栄養管理」が治療の中心なのか

IBDの治療では、薬や手術など医学的な介入が中心ですが、それらの効果を最大限に引き出すためには、「栄養状態」がとても重要です。栄養状態が悪いと、薬が効きにくくなったり、感染症にかかりやすくなったり、手術後の回復が遅くなることが知られています。

さらに、栄養は患者さんの生活の質(QOL)にも直結します。食べられるものが増え、体力が回復し、症状が安定していくことで、仕事や趣味、学業など、患者さん自身が大切にしている日常生活を取り戻すことにつながります。

IBDの栄養管理は、「食べてはいけないものを探す」ことではなく、「食べながら病気と付き合っていく方法を見つける」アプローチです。必要以上に制限するのではなく、検査データや症状、自分の経験を組み合わせながら、少しずつ“自分の体に合う食べ方”を見つけていくことが大切です。

おわりに ― 食べることは治療の一部

IBDは、再燃と寛解を繰り返す慢性の病気です。しかし、適切な治療と栄養管理によって、症状を和らげ、再燃を減らし、日常生活の質を大きく向上させることができます。

食事は制限ではなく、治療を支える大切な「力」です。自分の体と向き合いながら、少しずつ無理なく、食べられるものを増やし、栄養状態を整えていくことを一緒に目指しましょう。

執筆者

齋藤恵子先生
管理栄養士・東京科学大学病院長参与 機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者

管理栄養士として東京山手メディカルセンター(旧社会保険中央総合病院)、東京科学大学病院(旧東京医科歯科大学病院)で、長年にわたり炎症性腸疾患(IBD)の患者さまを中心に消化器疾患、糖尿病、高血圧、腎臓病など様々な患者様の栄養指導に携わり、健康と食生活の支援を行う。

また、「安心レシピでいただきます!―潰瘍性大腸炎・クローン病の人のためのおいしいレシピ」などの著書も執筆。

PAGE TOP