
執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
慢性下痢症とは?
慢性下痢症は、軟便または水様便が4週間以上持続または反復している状態とされます(1)。軟便や水様便というのは便の中に含まれる水分量が多い便のことを示します。
下痢の症状が4週間よりも短い下痢は、ウイルスや細菌による感染や食中毒、薬の副作用などで起こることがあります。
一方、長期的な下痢症状が続く原因としては腹痛を伴う下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)、潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性腸疾患(Inflammatory bowel Disease:IBD)や薬の副作用、さらには食事の吸収不良などが影響を与えていることがあります。
薬の副作用による下痢は、制酸剤、抗生剤、降圧剤などの一部で報告されています。
下痢が継続する場合は、上記のような様々な要因が影響を与えている可能性があるので自分で判断するのではなく、消化器専門医等の診察を受けましょう。
今回は最新の日本のガイドラインに基づき(1)、がんやIBDなどの病気由来ではない、狭い定義の慢性下痢症に対する食事療法を詳しく見ていきます。
慢性下痢症に対する食事療法
低FODMAP食と慢性下痢症
慢性下痢症にはIBSも含まれることもあり、食事療法としては低FODMAPが紹介されることが多いです。
FODMAPとは発酵性の糖鎖の短い炭水化物グループの総称です。健康な方ではFODMAPが含まれる食品を摂取しても問題ないことが多いですが、IBSの方ではこのFODMAPが含まれる食品を摂取することで腹痛や下痢などの消化器症状が起こることがあります(2)。
低FODMAP食はFODMAPが含まれる食品を取り除いた食事療法で、IBS下痢型への効果が確認されており(3)、腹痛を伴わない慢性下痢症にも勧められることがあります。
詳細については以下の記事をご確認ください。
下痢を引き起こしやすい食品
低FODMAP食と重なる食品も含まれていますが、これまでの研究で下痢を引き起こしやすい食品がいくつか挙げられています(1)。
具体的な食品とその理由は以下となります。
- 果糖が含まれるジュース:一度に多くの量を摂取する場合に腸の浸透圧が高くなり下痢が引き起こされることがある
- カフェインが含まれるコーヒーやエナジードリンク:腸を刺激することにより下痢を引き起こすことがある
- キシリトールなどが含まれるガム:小腸で消化吸収されにくい物質であることから下痢を引き起こすことがある
下痢に対する食事では、消化器症状の原因となり得る成分が含まれる食品を取り除く形の食事療法が多い一方で、下痢が続く患者さんでは体に必要な栄養素が十分に摂取できていないことも多いです。
食事に気を遣うことで消化器症状をコントロールしつつも、栄養バランスの良い食事を目指しましょう。
飲酒と慢性下痢症の関係
飲酒については、飲酒が機能性下痢症の症状と関係がみられなかったという報告がある(4) 一方で、大量の飲酒でIBS患者の下痢症状が悪化することが示された報告(5) もあり関連性が示唆されています。
下痢の方におすすめの低FODMAPレシピ
グッテレシピの中から下痢の方におすすめのレシピを紹介いたします。
かぼちゃ入り豚汁 by みねさん

かおりさん
体を温め、主菜にもなる栄養バランスの良い豚汁です。症状が重い時は、豚肉は脂身の少ない部位を選び、量を控えめにすることで消化の負担を軽減できます。
包丁不要のふわふわ卵丼 by はゆこさん

かおりさん
卵は比較的消化が良く、お粥や雑炊ほどではないものの、お腹を休めたい方にぴったりのメニューです。よく噛んで食べることを心がけましょう。
まとめ
今回は慢性下痢症に対する食事療法やおすすめレシピを紹介しました。下痢では低FODMAPをはじめとした消化器症状の元になり得る成分が入った食品を避ける食事が一般的ですが、過度に食事を制限しすぎると必要な栄養素を摂取できないことがあり注意が必要です。
主治医の先生と相談しながらご自身にとって最適な食事を模索していきましょう。
参考文献:
(1) 便通異常症診療ガイドライン2023, 日本消化管学会編, 株式会社南江堂2023年出版
(2) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9684123/
(3) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27725652/
(4) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27160318/
(5) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3697482/
監修者

今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師
消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。
執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。