潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)と脂質(飽和脂肪酸、オメガ3など)

監修者:今井 仁(東海大学健康管理学|消化器内科 講師)
執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)

この記事で抑えたいポイント

  • 活動期では潰瘍性大腸炎・クローン病ともに低脂質の食事が推奨される
  • 寛解期においては健康な方と同程度の脂質の量で問題ない
  • 各脂肪酸の種類によってIBDに与える影響が異なることが研究で示唆されている
  • 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、オメガ6系脂肪酸の摂取量や頻度を少なくし、オメガ3系脂肪酸やオメガ9系脂肪酸の摂取量や頻度を増やしましょう。

はじめに

潰瘍性大腸炎やクローン病(IBD)患者さんの中で脂質について気になる方は多いのではと思います。しかし先生によって言うことが異なったり、ウェブサイトやSNSで情報を検索するとさまざまなことが言われていて何が正しい情報かわからないという声も良く聞きます。

脂質についてさまざまな考え方がある背景には、IBDと脂質についてはさまざまな研究が行われていて、以前と比べて考え方が大きく変わってきましたことが関わっていると思います。

この記事ではIBDと脂質について活動期と寛解期別の考え方や脂肪の種類別のIBDとの関わり、日常生活における脂質の摂取を調整する工夫について紹介します。

脂質の概要

脂質とは?

脂質は、肉類・魚類・卵・乳製品などさまざまな食品に含まれていて、体のエネルギー源、体の中の膜や組織の生成などに使われます。

エネルギー源としては、炭水化物やたんぱく質もありますが、これらの栄養素と比べて、脂質は1gあたりに含まれるカロリーが多いことが特徴です(炭水化物、たんぱく質: 約4kcal/1g 脂質:約9kcal/1g)。

脂質の消化管への影響

また脂質は他の栄養素と比べ腸管への消化・吸収に対する負担が大きいと言われています。

炭水化物やたんぱく質と比べ消化吸収に時間がかかることに加え、消化されずに残った脂質は、消化管の動きで押し出す必要があるために、消化管の動きが活発になると考えられています。

IBDと脂質

IBD活動期における脂質の考え方

活動期では潰瘍性大腸炎・クローン病ともに低脂質の食事が推奨されることが一般的です。上記でも記載しましたが、脂質は消化管への負担が大きいため、活動期においては消化管への負担を軽減し、回復に努めるために脂質を抑えた方が良いと考えられます。

脂質をどの程度抑えるべきかについては明確な指標はありません。病院食などでは1日あたり20-30g以下などに抑えられていることが多いですが、ご自身で体調を見ながら脂質の量を調整することが大切です。

また体重の減少が続く場合や、食事が症状にあまり影響を与えない場合については過度な脂質の制限が不要な患者さんもいますので、不安な場合は主治医の先生と相談しましょう。

IBD寛解期における脂質の考え方

以前は寛解期においても、特にクローン病では1日30g以下などを指示されることが多かったです。

しかし、1日30g以下など脂質の総量を制限することが、寛解導入や維持につながるということについては海外含めてエビデンスは確立されていません(1)。また過度な脂質の制限は食事の幅を狭めることに加え、脂質に溶けるビタミンの吸収率の低下などにつながることも懸念されます。

よって寛解期においては健康な方と同程度の脂質の量で問題ないと考えられるようになっています。ただし何でも食べて問題ないということではありませんので、健康的な範囲で食べることが重要と考えられます。

なお、久しぶりに脂質を摂取する場合などでは、少量から少しずつ摂取し消化管へ影響がないことを確認してから徐々に摂取量を増やしていきましょう。

脂質の種類の違いとIBDへの影響

脂質を構成する脂肪酸は、その化学構造の違いによって、いくつかの種類に分類されます。そして興味深いことに、各脂肪酸の種類によってIBDに与える影響が異なることが研究で示唆されています。

以下の表は、脂肪酸の種類と各脂肪酸が含まれる食物をまとめたものです。

脂質の種類と各脂質が多く含まれる主な食品
飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は、融点が高く常温では固体であり、肉、バター、牛乳などの動物性食品に含まれます。

飽和脂肪酸は、心臓に関わる循環器系疾患のリスクを上げる脂肪酸(2)として知られていますが、IBDとの関わりについても研究が行われており、疫学研究や動物実験でIBDの病態と関与している可能性があることが示唆されています。(3)(4)(5)

特に疫学研究では、飽和脂肪酸がIBDの発症リスクを高めることが示唆されています。(5)

また、飽和脂肪酸を多く含む赤身肉などの摂取は、潰瘍性大腸炎の再燃リスクを増加させる可能性のあることも報告されています。(6)

飽和脂肪酸の過剰な摂取は、循環器系疾患などのリスクを上げるため、IBD以外の疾患の発症予防や健康を保つためにも、飽和脂肪酸の多い牛肉をよく食べる方は少し食べる頻度や量を調整したり、飽和脂肪酸が少ない鶏肉を頻度を増やしてみましょう。

オメガ9系脂肪酸

オメガ9系脂肪酸(オレイン酸など)は、オリーブオイル、キャノーラオイルなどに含まれます。これらの脂肪酸が多く含まれる食事としては、地中海食(地中海沿岸諸国の伝統的な健康的な食事)が有名で、循環器系疾患の抑制効果が確認されています。(7)

オメガ9系脂肪酸とIBDの関係は一貫した結果が得られていませんが、前向きのコホート研究において、オメガ9系脂肪酸の摂取が高かった群でIBD発症リスクが低かったことが確認されており(8)、オメガ9系脂肪酸は、飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸より炎症を悪化させるリスクは少ないと考えられています。

オメガ6系脂肪酸

オメガ6系多価不飽和脂肪酸は、必須脂肪酸であるリノール酸やアラキドン酸などがあります。大豆油などの植物油に多く含まれ、特に加工食品やスナック菓子にもよく使われる油になります。

これらの脂肪酸は、体内で炎症を誘導する脂質メディエーター(ロイコトリエン等)の材料として利用されるため、過剰な摂取は炎症を促進することが示唆されています。(9) 

疫学研究においても、オメガ6系不飽和脂肪酸の摂取量は、IBDの発症リスクを上げることが示されています。

オメガ3系脂肪酸

オメガ3系脂肪酸は、必須脂肪酸であるαリノレン酸や魚の油などに多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)があります。

オメガ3系脂肪酸は、オメガ6系脂肪酸が炎症を誘導する脂質メディエーターを抑えることによって、炎症を抑制することがわかっています。

またオメガ6系脂肪酸と共通の代謝経路を一部用いるため、近年ではオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率を整えること(オメガ6の摂取量を減らし、オメガ3の摂取量を増やすこと)が重要と考えられています。

IBDにおいても、オメガ3の比率が低いことがIBDのリスクの増加につながることが示唆されています。(5)

オメガ3系脂肪酸のサプリメントが市販されていますが、IBDの寛解維持におけるサプリメントの有用性は確認されていないため、IBD患者さんには推奨されていません。(10)

よって、オメガ3系の脂肪酸を摂取する場合は、サプリメントからではなく、食事からオメガ3系脂肪酸を摂取するように心掛けましょう。

脂質の摂取を調整する工夫

飽和脂肪酸の摂取量を減らす工夫

飽和脂肪酸が含まれる食品や調理油などを健康的な油に切り替える工夫をまとめました。ぜひ参考にしていただければと思います。

飽和脂肪酸 (x)健康的な選択 (◯)
調理油・サラダドレッシングバターラードパーム油
ココナッツオイル                   など
キャノーラオイル
オリーブオイル
アボガドオイルなど
食パン等へのスプレッドバターなどオリーブオイル
ナッツバター(ピーナッツ、アーモンド、ピスタチオ)
砂糖控えめのジャムなど
調理方法フライバターなど飽和脂肪酸が含まれた油(上記)での調理などオーブン焼き
煮る
蒸す
健康的な油(上記)での調理など
たんぱく質脂質の多い牛肉
豚肉皮付きの鶏肉フライドチキン
ベーコン、ソーセージなどの加工肉など

魚介類
大豆製品
代替肉
豆類
皮を取り除いた鶏肉
脂質の少ないヒレ肉など
牛乳成分無調整の牛乳
乳脂肪分が2%牛乳など
無脂質乳脂肪分が½%、1%の牛乳
豆乳/オーツミルク/アーモンドミルクなど
チーズ全乳/プロセス/ソフトチーズなど低脂質チーズ
豆乳チーズ(パームやココナッツ油が加えられていないもの)など
スイーツチョコレート
ケーキ
アイスクリーム
フローズンヨーグルト
フルーツ(バナナ、いちご、りんご、オレンジなど)
無脂肪/低脂質のギリシャヨーグルト/プレーンヨーグルトなど
間食・スナックチップス
クラッカー
フレンチフライなど
野菜スティック
ナッツ類(消化が気になる場合は柔らかい種類)
低脂質の全粒クラッカーなど
油の摂取量を減らす工夫

脂質の量を減らす方法は以下の特集記事に詳細がまとめられています。ぜひチェックください。

  • 油の摂取を控える工夫
  • 油なしでも美味しく食べる工夫
  • おうちで作れる簡単ファーストフード
お家でファーストフードを楽しもう♪

~ 油控えめでも食べ応え満点の工夫 ~ 監修者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)執筆者:福多 小夏(管理栄養士) 本年最初の特集は『お家でファーストフードを楽しもう♪』で…

まとめ

以上、IBDと脂質についてお伝えしました。ひとえに脂質と言っても、実は様々な種類があり、各脂肪酸によって、IBDに与える影響が異なる可能性があることが示唆されています。

脂質を調整することで体調を維持できる患者さん、脂質の制限が精神的に負担という患者さんなどさまざまな患者さんがいると思います。

ぜひこの記事を参考に自分にあう食生活を形作る一助にしていただければと思います。

監修者

今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師

消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。

執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士  

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

参考文献
  1. Levine A, et al. Dietary Guidance From the International Organization for the Study of Inflammatory Bowel Diseases. Clin Gastroenterol Hepatol. 2020 May;18(6):1381-1392.
  2. Briggs M, Petersen K, Kris-Etherton P. Saturated Fatty Acids and Cardiovascular Disease: Replacements for Saturated Fat to Reduce Cardiovascular Risk. Healthcare (Basel). 5(2):29, 2017.
  3. Kim KA, Gu W, Lee IA, et al. High fat diet-induced gut microbiota exacerbates inflammation and obesity in mice via the TLR4 signaling pathway. PLoS ONE 7:e47713, 2012.
  4. Gulhane M, Murray L, Lourie R, et al. High fat diets induce colonic epithelial cell stress and inflammation that is reversed by IL-22. Sci Rep.6:1–17, 2016.
  5. Hou JK, Abraham B, El-Serag H. Dietary intake and risk of developing inflammatory bowel disease: A systematic review of the literature. Am J Gastroenterol. 106:563–73, 2011
  6. Jowett SL. Influence of dietary factors on the clinical course of ulcerative colitis: a prospective cohort study. Gut. 53(10):1479-1484, 2004.
  7. Serra-Majem L, Roman B, Estruch R. Scientific evidence of interventions using the Mediterranean diet: a systematic review. Nutr Rev. 64:S27–47, 2006.
  8. De Silva PSA, Luben R, Shrestha SS, et al. Dietary arachidonic and oleic acid intake in ulcerative colitis etiology: a prospective cohort study using 7-day food diaries. Eur J Gastroenterol Hepatol. 26:11–8, 2014.
  9. Camuesco D, Gálvez J. Dietary olive oil supplemented with fish oil, rich in EPA and DHA (n-3) polyunsaturated fatty acids, attenuates colonic inflammation in rats with DSS-induced colitis. J Nutr. 135:687–94, 2005.  
  10. Turner D, Zlotkin SH, Shah PS, Griffiths AM. Omega 3 fatty acids (fish oil) for maintenance of remission in Crohn's disease. Cochrane Database Syst Rev. 28;(2):CD006320, 2014