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IBSのための認知行動療法③「リラックスしながら行動に取り組む」

執筆者:菅谷 渚(博士[人間科学]、公認心理師、臨床心理士)

「今日は症状が出ていないのに、外出前からお腹が気になる」
「急行電車や会議など、すぐにトイレに行けない場面を考えるだけで緊張してしまう」

過敏性腸症候群(IBS)のある方にとって、こうした経験は決して珍しいものではありません。腹痛や下痢そのものだけでなく、“起こるかもしれない症状”を予測して緊張し続けることもつらいですよね。実はIBSでは、症状に対する不安や警戒が、さらに腸を敏感にしてしまうことが知られています。
今回はこのような不安や緊張に対して、考え方へのアプローチとはまた異なる方法をご紹介します。

前回のコラムをまだお読みでない方は、以下をご覧ください。

過敏性腸症候群(IBS)のための認知行動療法(CBT)①「考え・感情・行動のつながり」

IBS改善のためによく使われる心理療法の一つが認知行動療法です(CBT[Cognitive Behavioral Therapy]とも呼ばれます) 。今回は認知行動療法とは何か、どんな理論をもとに…

過敏性腸症候群(IBS)のための認知行動療法(CBT)②「考え方に働きかける」

前回のコラムでは、過敏性腸症候群(IBS)改善のためによく使われる心理療法の一つとして認知行動療法(CBT)を簡単にご紹介しました。認知行動療法はその名の通り、否定…


行動に焦点を当てる「系統的脱感作法」

IBSの方の身体では、過去の嫌な体験がきっかけとなって、電車、外出、人前、トイレに行きにくい場所といった状況が、脳の中で「危険信号」として学習され、そのような状況を回避することがあります。このような行動はときに日常生活をスムーズに過ごすことを邪魔してしまいます。

このようなときに活用されているのが、行動に焦点をあてた方法である「系統的脱感作法」です。この方法は読みやすい書籍なども出ていますが、一人で行うにはハードルが高く感じる方もいると思いますし、うまく進められない場合もあるので、専門家のサポートの下で始めてみる方が望ましいこともあります。気になる方は主治医に相談してみるとよさそうですね。

系統的脱感作法は「不安階層表」という表を使うのが特徴です。
不安階層表とは、不安を感じる場面を弱いものから強いものまで順番に並べた表です。(表1)

不安が弱い場面から始めて、実際にその場に身を置きます。そのときに リラクセーション法(筋弛緩法や呼吸法など)を用いて、「リラックスした状態」をつくります。すると「避けなくても乗り切れた、大丈夫だった」という経験が積み重なります。不安をゼロにする必要はなく、多少不安が残っても大丈夫という体験をすることが大事です

不安が弱い場面がクリアできたら、次はもう少し強い不安を感じる場面にチャレンジします。このように、少しずつ段階を踏んで慣れていくのが系統的脱感作法です。この方法を続けることで、「お腹の症状が心配で避けていた行動」が少しずつ減り、日常生活のしやすさを取り戻すことをめざします。

リラクセーション法として今回は「漸進的筋弛緩法」をご紹介します。

身体にアプローチする「漸進的筋弛緩法」 

漸進的筋弛緩法では、力を入れて筋肉を緊張させてから筋肉を緩めることで筋肉の緩みを体感しやすくなり、リラックスした状態に導くことが期待されています。

<練習前の準備>

漸進的筋弛緩法を練習する際には次のような状態や環境を心がけるとやりやすいです。

(1) 練習場所:なるべく静かな場所が理想的です。椅子は背もたれのあるものを使いましょう。

(2) 服装:身体を圧迫して窮屈になるものはなるべく取り外します。(たとえば、めがね、腕時計、靴、靴下、ベルト、ネクタイなど)

(3) 姿勢:目を閉じて、椅子に座って、背もたれに軽く寄りかかります。が理想的です。椅子は背もたれのあるものを使いましょう。

身体の各部位で、力を入れてから(約 5 秒、図参照)ストンと力を抜き、緩んだ感覚を味わいます(約 20 秒)。特にこの力を抜いたときの感覚、例えば力を入れて縮んだ筋肉がスーッと伸びていくのをじっくり味わうという過程が大事になります。お腹の症状が気になる方はお腹に力を入れるときはやさしめで試してみてください。


最後はこれらを組み合わせてすべての部位に力を入れてから、力を抜く、という手続きです。リラクセーションはどこから始めても良いのですが、最初は一番力が抜けた感覚を感じやすい利き腕から始めるのが良いでしょう。それ以降は次のように他の部位へと移行していきます。たとえば次のような順番ですすめるのはいかがでしょう。

①腕(手)→ ②顔 → ③首 → ④肩 → ⑤腹 → ⑥背中 → ⑦脚 → ⑧全身

この順番は、大きく三つの段階に分かれます。

第一段階では①~④を、約1週間をめやすに行ないます。
第二段階では、⑤~⑦を、約1週間をめやすに行ないます。
そして、最後に第三段階として⑧を行なうことになります。


各段階で、一日にそれぞれの部位を2~3回繰り返すとより早くリラックスを感じやすくはなりますが、負担にならないように進めていきましょう。また、身体の痛みが出ない範囲で無理なく取り組んでください。
終了後は頭がぼんやりすることがあるので、立ち上がる前に「消去動作」を行いましょう。手を握って肘を曲げて、手を開いて肘を延ばすという運動を5回ほど繰り返し、最後に大きく伸びを2回ほどします。

まとめ

前回ご紹介したコラム法と同様に、漸進的筋弛緩法のような作業も日常的に行ってはいない方が多いので、はじめからリラックスした感覚が味わえなくても焦らずに気楽に続けてみると良いと思います。系統的脱感作法はやらなくてもリラクセーションだけ取り組んでみるのもよさそうですね。

執筆者

菅谷 渚
博士[人間科学]|公認心理師|臨床心理士

労働安全衛生総合研究所 産業保健研究グループ 研究員
横浜市立大学医学部公衆衛生学教室 客員准教授
労働者における過敏性腸症候群やストレスがかかわるホルモンなどについて研究してきました。

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