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潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)患者が押さえておきたいビタミン・ミネラル・電解質のポイント

執筆者:斎藤恵子(管理栄養士・機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者)

微量栄養素の基礎とIBDとの関係

微量栄養素とは、ビタミンやミネラルの総称です。これらはエネルギー源にはなりませんが、体内の代謝を円滑に進めるための「調節役」として不可欠です。
その必要量は、1日あたりmg(ミリグラム)やμg(マイクログラム)という、文字通り「ごく少量」です。

IBDでは、単なる食事摂取量の不足だけでなく、以下のような複合的な要因で微量栄養素が不足しやすくなります。特に不足しやすいのは、鉄、ビタミンB12、葉酸、ビタミンD、亜鉛です。

  • 吸収障害:炎症による腸粘膜のダメージや、手術による切除(特に回腸末端など)により、栄養を吸収する面積が減少します。
  • 薬剤の影響:サラゾスルファピリジンによる葉酸の吸収阻害や、ステロイドによるカリウム排泄の亢進などが挙げられます。
  • 炎症による利用阻害:炎症が起きると、体内に貯蔵されていても栄養素がうまく利用できなくなることがあります(例:鉄代謝におけるヘプシジンの影響)。
  • 体外への喪失:下痢や出血、瘻孔(ろうこう)などにより、水分とともに電解質やビタミンが失われます。

ビタミンとIBDの関係

ビタミンは体の「代謝・調整・構造」を支えるとても大切な栄養素です。ビタミンは脂溶性のビタミン水溶性のビタミンに分けられます。

脂溶性ビタミンは、脂質と共に腸管から吸収され、肝臓や脂肪組織に蓄積されます。以下のビタミンが脂溶性ビタミンに該当します。

脂溶性ビタミンの作用および欠乏症と過剰症

 合成可能:◯、合成不可:✕    (長尾陽子:栄養学総論(中野昭一 編), 医歯薬出版 1993:p.42)

水溶性ビタミンは血液などの水分に溶けて存在し、余剰分は尿として排出されます。以下のビタミンが水溶性ビタミンに該当します。

水溶性ビタミンの作用および欠乏症と過剰症

 合成可能:◯、合成不可:✕    (長尾陽子:栄養学総論(中野昭一 編), 医歯薬出版 1993:p.42)

今、IBD治療において特に注目されているのがビタミンDです。ビタミンDはカルシウムとリンの吸収を助け腎臓における再吸収を促進します。さらに腸バリア機能の維持、腸の免疫を整え、腸内環境の調節など重要な働きがあることがわかってきています。

そしてIBD患者さんではビタミンDの指標となる血清25(OH)ビタミンDレベルが低いことが知られており、IBD患者さんにおけるビタミンDの不足は病状の悪化や経過の不安定と関連する可能性も報告されています。
これまでは「骨を守るための数値(20 ng/mL以上)」が基準とされてきましたが、IBDにおいてはそれ以上のビタミンD(30~50 ng/mL)を維持することで、腸の治癒の向上治療効果の維持といったメリットがあることがわかってきています。

ビタミンDは「太陽のビタミン」とも呼ばれ、皮膚でも合成されます 。夏なら木陰で15分、冬なら陽だまりで30分~1時間程度が推奨されます 。食事では、ビタミンDは魚、きのこ類に多く含まれます。

ビタミンDを多く含む食品

(100g当たりの含有量)

(参考:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂))

ビタミンB12は「造血ビタミン」と呼ばれ、赤血球の形成に不可欠です 。不足すると巨赤芽球性貧血や、見逃されやすい神経症状(痺れなど)を引き起こします。また、IBDでは貧血との関連やインフリキシマブやアダリムマブ治療の二次無効リスクとの相関も指摘されています。
ビタミンB12が吸収される回腸の状態が吸収に大きな影響を与え、遠位回腸を20cm以上切除している場合、食事だけでの維持は極めて困難になることから、高用量の経口摂取や筋肉内注射が選択肢になることもあります。
食事では、魚介類とレバーに非常に多く含まれている一方で、植物性食品にあまり含まれないことからベジタリアンやビーガンでは特に不足しがちです。

ビタミンB12を多く含む食品

(100g当たりの含有量)

(参考:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂))

微量ミネラルとIBDの関係

微量ミネラルは体内にごく少量しか存在せず、1日の必要量が100mg未満のミネラルです。ビタミンと同様、体内の物質代謝に必要なもので、原則的に外部からの供給が必要になります。

微量ミネラルの種類と特徴

(北岡建樹:チャートで学ぶ輸液療法の知識,p84,南山堂、日本人の食事摂取基準(2025年版))

鉄は酸素運搬とエネルギー産生に関連します。鉄不足で”だるさ”が出るのは、細胞の燃料不足が原因と言われています。
IBDでは出血吸収障害炎症により鉄の不足が多く見られます。鉄を効率よく取り込むためには疾患の炎症を抑えることが大切です。
そして食事も重要なポイントになります。鉄はレバーに多く含まれます。また動物性(ヘム鉄)の方が吸収率が高く、植物性の鉄はビタミンCと一緒に摂ると吸収率が高いことがわかっています。

鉄が多く含まれる食品

(100g当たりの含有量)

(参考:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂))

亜鉛は、300種類以上の酵素の働きに必要で、タンパク質の合成や創傷治癒、免疫機能の維持に深く関わります。また、IBD患者が亜鉛を欠乏することは、IBD患者の入院リスクや手術リスクを高める要因の一つです 。
また亜鉛の投与が腸管粘膜の「タイトジャンクション(細胞同士の密着結合)」を再構築し、腸の透過性を低下(漏れにくい腸にする)させることが期待されています。
亜鉛は牡蠣に特に多く含まれ、その他肉類や卵などの動植物性食品にも豊富です。鉄と同様に動物性の食品の方が植物性より吸収率が高いことがわかっています。

亜鉛が多く含まれる食品

(100g当たりの含有量)

(参考:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂))

IBDと電解質異常

多量ミネラルである電解質にはナトリウム、カリウム、マグネシウムなどが含まれます。電解質は下痢下血により失われることに加え、小腸における炎症や切除により吸収不良になりやすいです。またステロイド治療や他の薬剤の影響も受けることがあります。カリウムやマグネシウムが多く含まれる食品は以下となります。

カリウムが多く含まれる食品

(100g当たりの含有量)

(参考:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂))

マグネシウムが多く含まれる食品

(100g当たりの含有量)

(参考:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂))

また、家庭で手軽に作れる電解質飲料は以下のように作ることができます。

これらは「OS-1」などの経口補水液に近いバランスで、効率よく水分と塩分を吸収できます 。

まとめ:先回りした栄養管理が未来を変える

IBDのビタミン・ミネラル管理のポイントは、「欠乏してから補う」のではなく、病態から予測して「先回りして介入する」ことにあります 。
「なんとなく体がだるい」「口内炎が治りにくい」といった小さなサインを見逃さず、定期的な血液検査でビタミンD、B12、鉄、亜鉛などの数値をチェックしましょう。

執筆者

斎藤恵子先生
管理栄養士・機能強化型 多摩小金井認定栄養ケア・ステーション責任者

管理栄養士として東京山手メディカルセンター(旧社会保険中央総合病院)、東京科学大学病院(旧東京医科歯科大学病院)で、長年にわたり炎症性腸疾患(IBD)の患者さまを中心に消化器疾患、糖尿病、高血圧、腎臓病など様々な患者様の栄養指導に携わり、健康と食生活の支援を行う。
また、「安心レシピでいただきます!―潰瘍性大腸炎・クローン病の人のためのおいしいレシピ」などの著書も執筆。

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