執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
今回の記事では多くの方が目にする機会が増えてきた小腸内細菌異常増殖症(SIBO)について、原因や他の疾患との関連、主な症状について紹介します。
SIBOとは?
SIBOは小腸内に過剰な数の細菌が存在し、この過剰な細菌が、腹痛、下痢、膨満感などの複数の腸の症状を引き起こす状態と定義されています。
通常、小腸には比較的少量の細菌しかいない状態が維持されています。
小腸の細菌のコントロールに影響を与えると考えられている因子は以下の表となります。
表1:小腸の細菌コントロールに影響を与える因子(1)
通常はこれらの機能が正常に作用することで小腸にいる細菌の量がコントロールされています。しかし様々な理由によりこれらの因子がうまく機能しなくなると、SIBOにつながることがあります。
SIBOが関連する疾患
SIBOの有病率についてはまだ実態が把握できていないと言われていますが消化器の病気との関連が示唆されています。
原因不明の腸の炎症を伴う国の指定難病である潰瘍性大腸炎やクローン病、そして炎症やがんなどを伴わない腹痛を伴う下痢や便秘などの症状をきたす過敏性腸症候群(IBS)との関連が示唆されています。
これまでの研究では各疾患のSIBOの有病率は以下となっています(2)。
表2:各疾患におけるSIBOの有病率
特に過敏性腸症候群では一般の健常者と比べてSIBOの有病率が高いことが複数の研究で注目されていますが(3)、過敏性腸症候群の患者におけるSIBOの発症についてはメカニズムなど含めてまだ解明されていません。
SIBOにより引き起こされる症状
これまでの研究では、腹痛、膨満感、ガス、腹部の張りなどが約2/3のSIBO患者に見られることが報告されています(4)。
重症例ではビタミンB12やビタミンD、鉄の欠乏が見られることがあり、これは増殖した細菌がこれらの栄養素を消費することにより引き起こされると考えられています(3)。
一方で、先述したように、SIBOは潰瘍性大腸炎・クローン病や過敏性腸症候群などの消化器疾患などと合併して発症することも多いため、どちらの病気が原因でこれらの症状が引き起こされるのかを見分けることは非常に難しいと言われています。
よって、SIBOについては、上記症状のみで判断するのではなく、合併症やこれまでの治療歴などを踏まえて症状を見ていくことが重要と言われます。
まとめ
今回はSIBOの病態や他の疾患との関係、そして関連する症状について紹介しました。SIBOに関連する症状が他の消化器疾患によって引き起こされる症状が多いことが、SIBOの理解の難しさにつながっていると思います。
次回の記事ではSIBOの診断方法について詳しく紹介していきます。
参考文献:
(1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32023228/
(2)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/apt.12456
(3)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32023228/
(4)https://journals.lww.com/ajg/fulltext/2020/02000/acg_clinical_guideline__small_intestinal_bacterial.9.aspx
監修者
今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師
消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。
執筆者
宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。