低FODMAP食を実践するためのヒント②~世界IBSデーに合わせたイベントレポート~
執筆者:井本 かおり(管理栄養士)
こんにちは。
管理栄養士のかおりです!
今回のコラム2024.4.19(金)に開催しました世界IBSデーに合わせたイベント「低FODMAP(フォドマップ)食の最新動向と実践のヒント」の中から、第二部「低FODMAP食を実践するためのヒント」 についてのレポート②と題して、前回同様、事前に「低FODMAP食について、当日聞きたいことや質問したいこと、普段疑問に思っていること」について、事前アンケートと当日チャットでいただいた質問を、宮﨑拓郎(米国登録栄養士)と井本かおり(管理栄養士)で回答させていただきました。
たくさんのご質問をいただきありがとうございました。スペースの都合上、今回ご質問いただいた内容は前回、今回と2回に分けて掲載させていただき、回答は要約しています。
前回のコラムをご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
また、文中に出る略語は、
- IBS…過敏性腸症候群
- IBD…炎症性腸疾患(主に潰瘍性大腸炎・クローン病)を指します。
ご質問内容一覧:
- Q1.潰瘍性大腸炎には食事制限がないが、低FODMAP食摂取することでの効果を知りたい。
- Q2.お腹にガスが溜まった時の対策は?
- Q3.もし遺伝があるとするなら子供がIBSにならないための対策は?
- Q4.潰瘍性大腸炎とIBSは関連があるのかを知りたいです
- Q5.レシピを作成するにあたり、トータルのFODMAP含有量を調べたいと考えています。食材何gあたりの含有量を調べる方法はあるのでしょうか。
- Q6.胃腸が弱いのですが、普段食事ではどのような点に気を付ければ良いか知りたいです。
- Q7. (低FODMAP食は)制限が厳しくハードルが高いので、楽な気持ちで始められる手法を知りたいです。
- Q8.乳糖不耐症は以前から知られているほうだと思いますが、乳糖を取らないと酵素も作られなくなると聞いた記憶があります。その人に合わない高FODMAP食かわからないものを避けるのは懸命でないでしょうか。
- Q9.なぜ日本では海外ほど(低FODMAPの)食事指導が推奨されてないのでしょうか
- Q10.水分を吸収できる下痢になるというような説明でしたけど、逆に便秘型の症状はどんなメカニズムで発生するのでしょうか
- Q11.低FODMAP食ついて、日本との違いを感じる点は何ですか
- Q12.実際 実践してみて症状の原因になる食材について検討がついていないのですが、どのように検討をつければいいでしょうか
今回はQ7~Q12までをお伝えします。
Q.7(低FODMAP食は)制限が厳しくハードルが高いので、楽な気持ちで始められる手法を知りたいです。
宮﨑:先ほどお話した簡易的な方法は、比較的ハードルが低いと感じられるかもしれません。具体的に、低FODMAP食を始める際のかおりさんの経験をご紹介します。
井本:私の場合、家族の中でいくつかの人がIBSであり、その中で症状が重い人には従来の低FODMAP食を、症状が軽い人には簡易版を実践しています。
簡易版では、普段摂りすぎがちな小麦製品や果物、牛乳、玉ねぎ、にんにくなどの高FODMAP食品を控えます。その他、低FODMAPの野菜を選んで10種類程度を組み合わせて料理を作ります。加工品については、完璧に低FODMAPを求めるのは難しいため、ラベルを確認し、可能な限り排除しますが、少量含まれているものについては柔軟に対応します。
ハードルが高い食事療法ですが、完璧を求めるのではなく、出来る範囲から取り組む事も1つの方法です。慣れるまでには1〜2週間かかるかもしれませんので、最初は8割程度出来れば良しとするという形で取り組んでみると、精神的な負担が軽減されるでしょう。
Q.8 乳糖不耐症は以前から知られているほうだと思いますが、乳糖を取らないと酵素も作られなくなると聞いた記憶があります。その人に合わない高FODMAP食かわからないものを避けるのは懸命でないでしょうか。
宮﨑:低FODMAP食に関しては3つのステップがあり、1つ目の制限期間をずっと続ける事は避けるべきだと言われています。
なぜなら、長期的に低FODMAP食を続けると、栄養バランスが乱れる可能性があるからです。さらに、腸内細菌のバランスも低FODMAP食では一時的に崩れる可能性があるという研究結果も示唆されています。
一般的には、低FODMAP食を完全に除去する期間は2〜6週間であり、その後は再導入期間で個々の食材がどのように影響するかを確認しながら進めることが重要です。ですから、全ての高FODMAP食品を一律に除去するのではなく、自身の症状となるものを特定して取り除くことが推奨されています
Q.9 なぜ日本では海外ほど(低FODMAPの)食事指導が推奨されてないのでしょうか
宮﨑:まず、科学的なエビデンスや大規模な臨床試験は主にアメリカやヨーロッパで多く蓄積されています。
日本では、低FODMAP食が日本人に効果があるかどうかの研究がまだ十分に行われていません。現在、日本でも臨床研究が進行中ですが、結果が出るまで時間がかかるため、現時点で保険適用の食事指導としては普及していないのが現状ではないのかと推測します。
Q.10 腸内で水分を吸収できず、下痢になるというような説明でしたけど、逆に便秘型の症状はどんなメカニズムで発生するのでしょうか
こちらのご質問は、「小腸内に残存したFODMAPが、小腸の表面から水を吸い上げて、消化管内に過剰に水分を滞留させます。消化管内に水分が溜まることによって、腹部の膨満感や腹部の痛みや、下痢などの原因になると考えられています。」というメカニズムについてのお話の中で当日ご質問をいただきました。
宮﨑:過敏性腸症候群(IBS)には下痢型、便秘型、混合型があります。低FODMAP食の効果は主に下痢型で証明されていますが、便秘型の患者でも症状が改善される例が報告されています。
ただし、便秘型に対する低FODMAP食の効果やメカニズムが下痢型と同じレベルで効くのかなどについては、まだ科学的に明確ではなく、今 大規模な臨床研究等がアメリカで行われ始めてるというところです。
Q.11 低FODMAP食ついて、日本との違いを感じる点は何ですか
宮﨑:低FODMAP食に関して、日本とアメリカの違いを感じる点は、アメリカでは低FODMAP食が普及しており、認証商品やレシピ情報が豊富にあることです。例えば、アメリカではにんにくや玉ねぎを使わない調味料などが多数販売されており、実践しやすい環境が整っています。
一方、日本では低FODMAP食の情報や商品が限られており、また、Monash大学FODMAPアプリでは確認できない日本の食品も多いため、実践への難しさを感じます。
Q.12 実際 実践してみて症状の原因になる食材について見当がついていないのですが、どのように見当をつければいいでしょうか
宮﨑:見当がついていない場合、まずは食事による消化器症状が全くないかを考える必要があります。特に、IBSの場合、主に食事による腹痛や下痢などの症状がある方が低FODMAP食で効果を感じやすい傾向にあります。
一方で、ストレスが原因でお腹が不調になりやすい方には、低FODMAP食を実践しても効果がない可能性があります。その場合は、食事が原因ではない可能性が高いため、他のアプローチを検討することが重要です。たとえば、認知行動療法などのメンタルヘルスへのアプローチが考えられます。
井本:低FODMAP観点では、毎日症状が出る場合は、毎日摂取している例えば、パンや乳製品などの食品が原因である可能性があります。
一方で、たまに症状が出る場合は、その日に摂取した食品が原因である可能性が高いです。このように、食事と症状の関連性を把握することで、原因を特定する手助けとなります。
宮﨑:毎日摂取するという観点からは、日常的にサプリメントを摂取している場合、これらに含まれる添加物が原因となる場合もあります。サプリメント以外にも日常的に摂取しているものを疑ってみることも一つの方法です。
たくさんのご質問ありがとうございました。これらの回答がみなさまのお役にたてれば幸いです♫
まとめ
低FODMAP食を実践するにあたって難しい部分も多いと思います。
もし、ご質問などございましたら、ぜひ皆さん一人で悩まれず、SNSのDMやメールにてお気軽にご質問いただければと思います。
可能な限り専門家の意見も含めて回答できればと思います。
また、低FODMAP食などIBSやIBDの患者さんのためのレシピサイトも運営していますので、そちらもぜひご活用ください。
今回のイベントでは貴重な時間を一緒に過ごしていただき、本当にありがとうございました。今後もこのような企画をご提供できるような場を設けていきたいと思います。
監修者
宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。
執筆者
井本かおり
管理栄養士|日本栄養士会食
物アレルギー分野管理栄養士
管理栄養士として、病院、行政(学校給食)、こども園で主に献立作成、栄養指導、食育などに従事。家では過敏性腸症候群(IBS)の息子と一緒に低FODMAP食事療法を実践中。忙しい時にでも簡単においしく出来るレシピが得意です。