グッテレシピ

2023年9月17日

マラソン/長距離走における腹痛などの消化器症状と食事制限の実態

監修者:今井 仁(東海大学健康管理学|消化器内科 講師)
執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)

米国登録栄養士の宮﨑です。今回は、消化器領域で注目を集めているマラソンランナー(endurance runners)における運動による消化器症状と消化器症状を避けるための食事制限の実態について、2020年に発表された調査研究を元に紹介したいと思います。

マラソンと消化器症状

お腹が弱い方に限らず、運動をするとお腹が痛くなったり下痢などの症状が出るという方は意外と多いかもしれません。

実はこれまでの研究においても、マラソンランナー(endurance runners)では、運動により腹痛や下痢などの消化器症状を経験することが多いことや、それらの症状が運動パフォーマンスに影響を与えることなどが報告されており、研究者の間でも注目が集まっています。

研究やその手法により報告に差があるものの、30〜90%程度の長距離ランナーが何らかの消化器症状の不調を経験しているとの報告があります。(1)

マラソンによる消化器症状と食事

運動前の食事の選択が消化器症状に大きな影響を与えることは現在広く認知されていますが、実際にマラソンランナーがマラソン開始前にどのような食事を行っているかについての研究はあまり行われていませんでした。

今回紹介する研究では、このような背景を踏まえ、マラソンランナーの消化器症状や食事制限の実態を把握することを目的として実施されました。(2)

研究結果

この研究ではマラソンランナー388名に対して、食事制限と消化器症状に関する紙ベースの質問に回答してもらい、その内容の分析を行いました。

マラソンランナーが避けていた食事

マラソンランナーが避けていた食品として多かったものは、肉(32%)乳製品(31%)魚/魚介類(28%)鶏肉(24%)食物繊維が多く含まれる食品(23%)でした。

※ (2)をもとに作成

その他の食品としては、チョコレート、豆類、コーヒー/紅茶、エネジードリンク、じゃがいもなどのでんぷんが含まれる野菜などが挙げられていました。

またカフェインが含まれる飲み物は、10kmかそれ以下の距離のイベントで多くのランナーに避けられていました。

食事制限を行っていたランナーの割合は、特に若いランナーやよりパフォーマンスの高かったランナーで高い結果となりました。

マラソンランナーが経験している消化器症状

消化器症状として多く挙げられていたのは、胃痛/胃痙攣(42%)腸の痛み/不快感(23%)脇の腹痛(22%)便の切迫感(22%)膨満感(20%)などでした。

※ (2)をもとに作成

消化器症状を経験していた割合は、若いランナーや女性ランナーで多くみられました。

なお距離が長くなるほどより多くのランナーが下痢を経験していました。

まとめ

この研究ではマラソンランナーの消化器症状や消化器症状を避けるための食事に関する質問表を用いた調査・解析が行われました。

その結果、多くのマラソンランナーが胃痛や腸の痛みなどの消化器症状を経験していたことに加え、消化器症状への対応として、肉や乳製品など様々な食品の制限が行われていました。

また消化器症状をより多く経験していたのは若いランナーや女性ランナーでした。

マラソンランナーにおける消化器症状は近年注目が集まり、様々な研究が行われています。

食事療法としては低FODMAP食などが注目されています。

低FODMAP食と気をつけるポイント-過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)に対する食事療法

監修者:今井 仁(東海大学健康管理学|消化器内科 講師)執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士) この記事で抑えたいポイント ・IBSやIBD患者さんの中にはFODMAPで消化器症…

過敏性腸症候群(IBS)などの診断はついていないけど消化器症状が気になるという方は多いのではと思います。もし気になる症状がある場合は消化器内科等を受診し診察を受けることをお勧めします。

監修者

今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師

消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。

執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士  

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

参考文献
  1. de Oliveira EP, et al. Gastrointestinal complaints during exercise: prevalence, etiology, and nutritional recommendations. Sport Med. 2014. 10.1007/s40279-014-0153-2.
  2. Parnell JA, et al. Dietary restrictions in endurance runners to mitigate exercise-induced gastrointestinal symptoms. J Int Soc Sports Nutr. 2020; 17: 32.
PAGE TOP