執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
こんにちは。米国登録栄養士の宮﨑です。今回は近年、潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)含むさまざまな研究が行なわれている 地中海食(Mediterranean Diet) について紹介いたします。
地中海食は地中海諸国の伝統的な料理で、その食事パターンが非常に健康的なことから海外でとても注目されている食事療法となっています。
心臓や血管の病気に加えうつ病や認知機能障害(1)、さらにIBD(2)に対する効果も注目されています。
この記事では、地中海食の概要や日本食との類似点、さらにはこの地中海食のなかで、日々意識しないと摂取がおろそかになってしまう食品についても紹介します。
地中海食の食事パターン
地中海と聞くとオリーブオイルや魚をイメージする方も多いのではと思います。実際、地中海食はこのオリーブオイルや魚以外にも様々な健康的な食材が含まれます。
また地中海食は食品の組み合わせとなりますので、各食品の摂取量と頻度が地中海食ピラミッド(3)として定義されています。
具体的には、毎食摂取が推奨される食品、毎日摂取が推奨される食品、毎週摂取する食品または摂取を控える食品といった形です。
【毎食摂取が推奨される食品】
【毎日摂取が推奨される食品】
【毎週意識してなるべく多く摂取する食品】
【摂取する頻度を調整する食品】
海外の医療機関では地中海食をプレートの絵で紹介することが多いです。
以下はハーバード大学が公表しているHarvard Healthy Plateを元に作成したヘルシープレートです。このHealthy Plateも地中海食がベースになっていると考えられます。
野菜
- 一食の約半分を野菜とします。さまざまな" 色 "の野菜を取り入れてみましょう。
- じゃがいもには炭水化物が多く含まれているため、このプレートでは野菜に含めません。じゃがいも以外の野菜を選択しましょう。
全粒製品
- 一食あたりの約1/4の割合をご飯やパンなどの穀類とします。
- 玄米や全粒パンなどの全粒製品の摂取を1日の半分以上とすることが目標です。
健康的なたんぱく質
- 一食あたりの約1/4を健康的なたんぱく質とします。
- 魚介類や豆類、皮なしの鶏肉などが中心となります。
- 牛肉や豚肉を食べても大丈夫ですが、摂取頻度を減らしましょう。
健康的な油
- キャノーラオイル、オリーブオイルなどを選択しましょう。
- バターの摂取頻度は抑えましょう。
健康的な飲み物
- 水やお茶、砂糖の入っていない炭酸水などがおすすめです。
- 果物ジュースは100%のものであっても小さなコップ1杯程度に抑えましょう。
フルーツ
- 間食や朝ごはんなどに有用です。
- さまざまな色のフルーツを含めてみましょう。
実は多い日本食との類似点
上記の表を見てお気づきの方も多いと思いますが、この地中海食は日本食・和食と共通部分も多くあります。
例えばみなさんが日々食べている野菜や魚介類、豆類などが含まれていますし、玄米は全粒製品に該当します。
つまり、地中海食という名前を聞くと自分たちとは関係ない食事と思いがちですが、野菜、魚、豆類、玄米などの全粒製品が中心ということで非常に日本食と近い食事パターンとなります。
潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)患者さんがおさえておきたいポイント
この地中海食では食品群のバランスが大切となります。
そのような中、IBDやIBS患者さんでは、意識しないとなかなか摂取量や頻度を増やせない食品や食品群がいくつかあります。
POINT
01
野菜
IBDだと活動期に野菜が不足しがちになることや寛解期も消化管への負担を恐れて野菜の摂取量が少なくなることがよくあると思います。IBS患者さんで低FODMAPの制限期を実践されている場合はどうしても控える野菜が多くなるかもしれません。
野菜には食物繊維が豊富に含まれ腸内環境を整える上でも重要な役割を担っています。またファイトケミカルと呼ばれる抗酸化作用を有する物質も豊富に含まれています。
お腹の調子と相談しながら、調子が良い時は日々の生活の中で、なるべく様々な" 色 "の野菜を毎食取り入れましょう。
コンビニで食事をとらなければならない場合は野菜サラダを必ずセットとし、外食の場合も定食にするか極力サラダをつけましょう。
POINT
02
魚
魚にはオメガ3という健康的な脂質が含まれ抗炎症効果や血液をさらさらにする作用が注目を集めています。脂質を控えたいときは白身魚も選択肢となります。
POINT
03
豆類
忘れがちなのが豆類です。日本だと納豆などの大豆製品やひよこ豆、缶詰のミックスビーンズなどを目にすることが多いかと思います。
この豆類には、植物性のたんぱく質が含まれることに加え、野菜と同様に食物繊維も豊富に含まれます。低FODMAP食を実践されている方は豆類が怖い方もいるかもしれませんが、必ずしも全員が豆類を食べて消化器症状が出るわけではありません。
豆類の摂取を増やしたい場合は、納豆などを定期的に食べない場合でもサラダにミックスビーンズを合わせるなど工夫をして豆類の摂取量を増やしていきましょう。
缶詰の豆類はスーパーなどで販売されていますので、家に常備しておくと様々な料理に合わせることができます。
大豆製品については過去のコラムもご覧ください。
まとめ
以上、地中海食の概要について紹介いたしました。
地中海食と聞くとあまり馴染みがないですが、実は日本食と近い部分も多く、日々の食生活の中に取り入れられることも多いことを知っていただけたかと思います。
現在地中海食のIBDに対する効果なども検証され始めていますのでまた改めて紹介したいと思います。
▽ お勧めレシピ ▽
監修者
今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師
消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。
執筆者
宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。
参考文献
- T Psaltopoulou, et al. Mediterranean diet, stroke, cognitive impairment, and depression: A meta-analysis. Ann Neurol. 2013 Oct;74(4):580-91.
- CH Lo, et al. Healthy Lifestyle Is Associated With Reduced Mortality in Patients With Inflammatory Bowel Diseases. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021 Jan;19(1):87-95.e4.
- A Bach-Faig, et al. Mediterranean diet pyramid today. Science and cultural updates. Public Health Nutr. 2011 Dec;14(12A):2274-84.