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IBD(潰瘍性大腸炎・クローン病)とともに自分らしく働くための「伝え方」の工夫

執筆者:大谷 翔(国家資格キャリアコンサルタント/両立支援コーディネータ― )

IBD(炎症性腸疾患)を抱えながら働く中で、「自分の体調や状況が職場にうまく伝わらない」「どう伝えたらいいか分からない」と悩んだことはありませんか?
今回は、2026年6月7日に開催された、IBDとともに働き続けるコツ③「自分らしく働くための伝え方の工夫」から、職場で無理なく働き続けるためのコミュニケーションのヒントをご紹介します。

なぜ職場で「伝えにくさ」が生じるの?

そもそも、なぜ職場で病気のことや体調について伝えるのが難しいのでしょうか。それには、IBDの現実と職場の期待との間にある「ギャップ」が関係しています。

職場は基本的に、従業員に対して「計画的」で「恒常的(常に一定のパフォーマンスを出せること)」であることを期待します。さらに暗黙の了解として、責任感やワークライフバランスなどが求められることもあります。しかし、IBDの現実は、症状が外から見えにくく(不可視性)、体調に波があったり、突発的に症状が出たりします。

さらに、患者さん自身の中にある「迷惑をかけるかもしれない」という不安感責任感から、症状を隠してしまうことがあります。また、「認知のゆがみ」によってマイナス思考に陥ったり、「こうあるべき」という非合理的な信条に囚われてしまうこともあります。「きっと相手も私と同じ考えだろう」と思い込んでしまう「投影バイアス」も、コミュニケーションのすれ違いを生む大きな原因です。
たとえば、上司が「お腹痛いくらいなら午後の会議は平気だよね」と思う一方で、患者さんは「再燃していて体力的に辛い。そろそろ休みたい」と感じているようなケースです。

このように双方が「心理的契約(自分と相手との間に相互の義務があると信じている状態)」にずれを抱えていると、利害の相違を感じる「対立状況(コンフリクト)」に陥り、トラブルが生じやすくなります。コミュニケーションのパズルがしっかりと「はまる」イメージを持つことが大切です。

理想の伝え方「アサーティブ・コミュニケーション」

コミュニケーションの姿勢には、大きく分けて以下の3つがあります。

  1. アグレッシブ(攻撃的):相手の気持ちを考慮せず、自分の主張のみを伝える姿勢。
  2. ノンアサーティブ(消極的):自分の意見を言わず、受け身に徹する姿勢。
  3. アサーティブ(建設的・協調的):お互いの主張や立場を尊重する姿勢。

職場で目指したいのは、この中の「アサーティブ」な姿勢です。意見や価値観が異なっても議論ができ、立場に違いがあっても対等な姿勢で対話できるのが理想のあり方です。目指すべきゴールは、自分の「伝えたい」という思いをしっかり「伝える」ことであり、本当の良い関係とは、「何がOKで、何がNGなのか」を忖度せずに伝え合える関係なのです。

では、具体的にどのように伝えればよいのでしょうか。
相手を傷つけずに自分の意見を伝えるためのフレームワークとして「DESK法」があります。一連の流れを作って話すことで、円滑に意見を伝達できます。

D:描写 (Describe) … 事実や状況を客観的に伝える。
E:表現 (Express) … 自分の感情や気持ちを表現する。
S:提案 (Suggest) … 具体的な解決策や要望を提案する。
C:選択 (Choose) … 相手の反応(YES/NO)に対する選択肢を用意しておく。

伝える際は、「自分の推測や相手に関する評価は言わない」「感情的・攻撃的な言葉遣いは控える」「高圧的に相手を責めたり命令したりしない」という点に気をつけることが重要です。


では「上司から休みの多さを指摘された場合」の事例を見てみましょう。

上司がNOと返答した場合に、「そうなんですね、わかりました」「休まないように気を付けます」などと相手の言葉をそのまま受け入れる返答をするのは「ノンアサーティブ」な姿勢です。「アサーティブ」な姿勢で自分の要求を伝えるための準備についても考えていきましょう。

相手からの要求に対して、「その要求は無理だ」と心の中では分かっていても、つい「わかりました(YES)」と言ってその場をやり過ごしてしまうことはありませんか?そして、後になってから「なぜあのときNOと言わなかったのだろう」と自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。
お互いが歩み寄るためには、自身の「許容境界線(どこまでなら受け入れられるか)」を確認しておくことが大切です。物事は「①自分の考えと一緒」「②違和感を感じるが許容できる」「③許容できない」の3つに分けられますが、②の許容範囲を広げることで、相手の意見を受け入れやすくなります。交渉の場面では、「最低限これだけはしたい」「少なくてもここまではしてほしい」と具体的に伝える工夫をしましょう。

また、いざ相談をする前には、「十分な」準備を整えることも重要です。就業規則にある傷病休暇制度を確認する、保健スタッフに相談する、復職を前提とした相談内容を組み立てるなどです。さらに、「病気に理解がないのでは」「部長は部下に厳しいから」といった無意識の思い込みで判断がずれないように注意しましょう。急には走れないのと同じで、伝えたいことの言語化声に出す練習を重ねるなどの訓練も大切です。

どんなに伝え方を工夫しても、気持ちが揺らいでしまったり、うまく伝わらないこともあるかもしれません。そんな時に立ち返るべき土台は、「相互尊重と相互信頼」です。
自分を信頼し、相手を信頼しましょう。完璧な人はおらず、自分にも相手にも事情があります。自分のできるところや不完全さを認める勇気を持つと同時に、相手に完璧なアサーティブを求めず、事情を理解する寛容さを持ちましょう。
伝えることは、時に勇気が必要なこともあります。それでも伝えなければ、気持ちは相手に届きません。伝えるための一歩に気持ちが重なってこそ、相手の理解につながり、自分らしく働き続けるための環境づくりへと繋がっていくのです。

執筆者

大谷 翔
国家資格キャリアコンサルタント/両立支援コーディネーター
共愛学園前橋国際大学 法人本部兼大学企画調査室 室長補佐/理事長補佐

大学にてキャリア教育科目の講師および、就職相談、産学連携に10年以上携わってきました。

参考文献

・Rousseau, D. M. (1995). Psychological Contracts in Organizations: Understanding Written and Unwritten Agreements
・Beck, A. T. (1976). Cognitive Therapy and the Emotional Disorders.
・Ellis, A. (1962). Reason and Emotion in Psychotherapy.
・戸田久美. (2022). 『アサーティブ・コミュニケーション』


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