
執筆者:宮﨑拓郎(米国登録栄養士)
2025年5月17日、京都大学楽友会館で開催されたイベント「IBDコミュニティ2025 in 京都大学」では、医療や食をテーマにさまざまな講演が行われました。イベントの詳細は以下のリンクをご参照ください。
その中で注目されたのが、管理栄養士・中東真紀(なかひがし まき)先生によるセッション「IBDの食事療法研究・実践の最前線~健康長寿にも最適な地中海食と京料理の共通点~」です。
IBD(炎症性腸疾患)とは、潰瘍性大腸炎やクローン病など、原因不明の腸の炎症が起こる病気のこと。日々の食事が症状に大きく影響するため、患者さんの間では「何を食べたらいいの?」という悩みが尽きません。この講演では、IBDと向き合う人々にとって、IBD患者さん向けの食事・栄養管理のポイントに加えて「地中海食」や「京料理」がなぜ良い選択肢になるのか、そのヒントがたくさん紹介されました。
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IBDの人が気をつけたい食のポイント
IBDは症状がある「活動期」と落ち着いている「寛解期」によって、食べられるものが変わる病気です。中東先生は、最新の研究動向とこれまでの臨床経験をふまえて、以下のようなポイントを挙げていました。
Point1
脂質については活動期は控えめにしつつも寛解期は過度な制限は不要。脂質の「種類」が大事。魚に多いn-3系、オリーブオイルに多いn-9系などを選ぶ
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Point2
食物繊維は、活動期は特に残渣の多い食品を控えめに、寛解期には積極的に取り入れて
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Point3
「素材そのものの味」を楽しむ調理を心がける
地中海食ってなに?
地中海食は、イタリアやスペイン、ギリシャなど地中海沿岸地域で昔から親しまれている食事スタイルです。
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具体的には以下のような特徴があります。
- 野菜や果物、豆類、ナッツをたっぷり使う
- 魚介類をよく食べる
- 良質な油(特にオリーブオイル)を使う
- 加工品や赤身肉は控えめに
- 薄味で素材の味を活かす
- 食事を家族や仲間と一緒に楽しむ
これらの特徴により、心臓病やがん、認知症などの予防に効果があることが様々な研究で報告されており、近年はIBDに対する研究も進んでいます。また2024年に公表されたアメリカ消化器病学会のIBD臨床アップデートの中でも、寛解期で狭窄などがない場合の食事として地中海食が推奨されています。
京料理との意外な共通点
地中海の国々とは文化も気候も違う日本ですが、京都で受け継がれてきた「京料理」には、地中海食と似た点がたくさんあります。
たとえば、
- 季節の野菜や魚、地域の素材を中心に使う
- 様々な食材で風味を豊かにする
- 伝統的なシンプルな調理法を重視
- バランスの良い食事内容
こうした特徴はIBDの患者さんでも食を楽しめるスタイルといえます。
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家族みんなの健康を支える食事
中東先生は、「IBDの人だけが別のものを食べるのではなく、家族みんなが一緒に健康的な食事を楽しめることが理想」と話します。実際、地中海食は家族や地域の人と一緒に食卓を囲む文化でもあります。現代の日本では“孤食”(一人で食べる食事)が増えていますが、毎日の食事に少し意識を向けて「誰かと一緒に食べる」「旬の素材を味わう」ことで、食事がもっと豊かなものになると思います。
最後に:伝統の食が、未来をつくる
地中海食と京料理。文化の違うふたつの食事が、様々な病気やIBDという腸の難病にも共通してやさしく寄り添ってくれる―そんな気づきが得られた今回の講演。食事とは単に栄養をとるだけでなく、「生き方」や「人とのつながり」を通し、人生を豊かにする、とあらためて実感できる時間となりました。
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監修者

中東真紀
機能強化型 認定栄養ケア・ステーション鈴鹿 代表
機能強化型 認定栄養ケア・ステーション鈴鹿 代表
ナフス株式会社 栄養開発室 室長
御木本製薬株式会社 生化学研究員として勤務後、市立伊勢総合病院、特定医療法人同心会遠山病院栄養科科長、名古屋経済大学准教授、四日市羽津医療センター(元四日市社会保険病院)栄養科長、鈴鹿医療科学大学准教授として勤務。その後、認定栄養ケア・ステーション鈴鹿を立ち上げる。また、愛知医科大学医学部衛生学講座研究員、松本大学大学院非常勤講師、日本聴能言語福祉学院非常勤講師、みえIBD 患者会事務局、NFリプル株式会社 代表取締役などを務める。
執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。