潰瘍性大腸炎やクローン病(IBD)や過敏性腸症候群(IBS)の患者のための脱水症状の知識と予防方法

監修者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
執筆者:井本 かおり(管理栄養士)

潰瘍性大腸炎やクローン病(IBD)および過敏性腸症候群(IBS)の方は、下痢などの症状により、体内の水分が失われる可能性が高まります。また、便秘の方は体内の水分が減ることで便通にも影響を及ぼす可能性があり、特に体内の水分が失われやすい暑い時期には水分補給が重要となります。


人にはどれくらい水分が必要なのでしょうか?

人間のからだの約60%は水分で、その内の5%を失うと、脱水症状や熱中症などの症状が現れるといわれています。
ちなみに、人間が1日に必要な水分量は約2.5Lと言われております。
しかし、2.5L全てを飲み物から摂取する必要はありません。食事から約1.0L、体内で作られる水から約0.3Lで確保できるので、 飲み物から約1.2Lほど摂取できると良いと言われています。*1

華美さん
IBS混合型

では、1日に1.2Lの飲み物を飲むと安心ですね。

管理栄養士
かおりさん

この飲み物の量はあくまで目安です。

汗をたくさんかく暑い日や、スポーツなどで汗をかくことが多い生活を送っている方、下痢で水分を排出してしまう方は、飲む量を増やす必要があります。
1日1200mlを目安に汗や下痢などで水分が体から排出されやすい時は、水分摂取量を増やすようにします。

※医師に水分の摂取について量など指示されている場合は、医師の指示に従ってください。

普段の水分補給のポイントは?

  • こまめに水分補給を行なう。
    喉が乾くまで待つのではなく、渇きを感じる前に少しずつこまめに飲むようにします。
  • 起床時と就寝前、入浴前は特に意識をして飲む。
    入浴中や就寝中は思っている以上にたくさんの汗をかき水分が不足しがちです。就寝前に飲むとトイレが近くなるのが嫌だと控える方もいますが、脱水予防の為に少しでも飲むようにします。
  • コーヒーと紅茶などカフェインが含まれている飲み物は水分補給の代わりにはなりません。
    カフェインが多く含まれている飲み物は水分補給としてカウントせず、水を合わせて飲むようにします。
  • アルコールは利尿作用があるため、アルコールを飲む時は水も合わせて飲むようにします。
    お酒を飲むとトイレが近くなりますが、特にビールは利尿作用が強く、1Lのビールを飲むと、1.1Lの水分を身体から失うといわれています。
  • 食品からも水分を摂ることを意識します。
    体内の水分は、飲み物だけでなく、食品からも摂取しています。水分が多い野菜や穀物類を意識して摂ることも水分補給に役立ちます。*1

食品1食あたりの水分の含有量】*2

ご飯の水分量が多い理由は炊飯時に水を米の1.5倍入れて炊くためです。
同じ主食で、ほぼ同じエネルギーを持つ4枚切り食パン1枚と比較すると、食パンの水分量は35.3gであり、これはご飯に比べて半分以下と少ないことが分かります。

華美さん
IBS混合型

IBDやIBSの方が特に気を付けた方がいい事はことはありますか?

管理栄養士
かおりさん

それでは、それぞれの疾患に合わせたポイントをお伝えしていきましょう。

IBD(潰瘍性大腸炎やクローン病)の場合

  • IBDでは、頻回の下痢によって水分や電解質が排泄されてしまうため、それを補うために水分補給が必要となります。
  • 下痢が悪化するのを恐れて水分の摂取を制限してしまい、脱水の危険性が高まることも多くあります。
  • IBDでみられる下痢は、主に腸管の炎症により引き起こされているため、水分摂取が下痢を悪化させることは少ないと考えられます。
  • 脱水症状を防ぐため、1日1500~2000ml程度の積極的な経口補水液などの水分補給が望ましいです。*3
管理栄養士
かおりさん

IBSの場合は、下痢型、便秘型ともに水分補給を意識する必要があります。

IBS下痢型の場合

  • 下痢によって体内から便と一緒に水分や電解質が多く失われるため脱水症状が起きやすくなります。
  • 脱水がひどくなると消化管の機能も低下してしまうため、体に出た分の水分や電解質を補給することが必要になります。

下痢の時は脱水症状を防ぐため、1日1500~2000ml程度の積極的な経口補水液などの水分補給が望ましいです。また、次のようなポイントに気を付けます。

  • 温度は冷えていない常温のものにする。
  • ゆっくりと少しずつこまめに飲む。

IBS便秘型の場合

  • 脱水傾向にある場合は便秘症状の改善に水分補給が必要となります。
  • 脱水傾向がない場合は、水分をたくさん飲めば便秘改善の効果があるのかは不明です。
  • 便秘型の方の水分補給はこまめに、脱水が起きない量を飲むことが適切といえます。*4

華美さん
IBS混合型

IBD、IBSの方どちらも日常的に適度な水分補給が必要なのですね!

普段の水分補給を意識していても、知らないうちに脱水症状が起きていないか気になります。
脱水症状が起きているかを見分ける方法を教えて下さい。

脱水症状の見分け方

管理栄養士
かおりさん

「脱水」になると、自覚症状としては口の渇きや体のだるさ、立ちくらみなどを訴えることが多いです。それ以外にも簡単に脱水症状かを確認する方法があります。

  • 唇がカサカサしたり、口の中や舌が乾いている時
  • 手の甲の皮膚をつまんですぐに戻らない時(戻るまでの時間が3秒以上の時)
  • 脇の下がカサカサの時
  • 爪を押してから色がすぐに戻らないとき

上記の症状がある場合は脱水症状が起きている可能性があります。水分補給をするようにしましょう。

華美さん
IBS混合型

脱水症状があるときは経口補水液が良いと言われていますが、スポーツドリンクを飲んでも良いのでしょうか?

管理栄養士
かおりさん

経口補水液とスポーツドリンクの違いについて説明したいと思います。

経口補水液とスポーツドリンクの違いは?*5

経口補水液

  • 経口補水液は体液に近い浸透圧で吸収が速いため、脱水症状時や大量の汗をかいたときに適しています。
  • スポーツドリンクに比べて糖分が少なく塩分が多く含まれています。
  • 暑さや発熱などで大量に汗をかいた時や、下痢や嘔吐による脱水症状が出たときの水分補給には、経口補水液が適しています。
  • ナトリウムが多く含まれているので、普段の水分補給は水やお茶にしましょう。

スポーツドリンク

  • スポーツドリンクは発汗によって失われた水分やミネラルを補給する効果的な飲料で、疲労回復にも役立ちます。
  • 経口補水液に比べ糖分が多く含まれており、過剰摂取による肥満や虫歯のリスクがあるため、スポーツや重労働でエネルギーの補給も合わせて必要な場合に飲むようにします。
管理栄養士
かおりさん

下痢や汗をかいて脱水症状が起きている場合の水分補給は経口補水液が適切です。

華美さん
IBS混合型

市販の経口補水液が手元にない場合はどうしたら良いでしょう?

管理栄養士
かおりさん

自分で作れる経口補水液の作り方を紹介しますね!

自宅で出来る経口補水液の作り方

【材料】

・水 500ml
・食塩 小さじ1/2(1.5g)
・砂糖 大さじ2(18g)

この3つを混ぜるだけです。

※レモン汁を入れると飲みやすくなります。
※経口補水液の塩分濃度0.3%と同じ濃度です。
※市販の経口補水液はカリウム、マグネシウム、リンなどのミネラルが入っており、組成が多少異なります。
※手作りのため、長時間の保存には向いていません。その日に飲み切るようにしましょう。

管理栄養士
かおりさん

暑い日に食べやすい、そして水分量が多いレシピをご紹介します。

これから暑い日が続きますので、こまめに水を飲む事を日課にして脱水症状や熱中症を予防して下さいね。
特に暑い日や運動時には、さらに水分摂取を増やすことを心がけましょう!

監修者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

執筆者

井本かおり
管理栄養士|日本栄養士会食
物アレルギー分野管理栄養士

管理栄養士として、病院、行政(学校給食)、こども園で主に献立作成、栄養指導、食育などに従事。家では過敏性腸症候群(IBS)の息子と一緒に低FODMAP食事療法を実践中。忙しい時にでも簡単においしく出来るレシピが得意です。

参考文献
  1. 「健康のため水を飲もう推進委員会」(厚生労働省公表) 
  2. 「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」をもとに作成
  3. ~IBDにおける栄養学の科学的根拠と実践法~潰瘍性大腸炎とクローン病の栄養管理 講談社
  4. 吉良 いずみ(2013)便秘ケアとしての水分摂取のエビデンスに関する統合的文献レビュー 日本看護技術学会2013 年 12 巻 2 号 p. 33-42誌
  5. 農林水産省〜熱中症対策には、水よりスポーツドリンクを飲むとよいと聞いたのですがどうしてですか。また、経口補水液との違いも教えてください~
    https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/2007/02.html