執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
今回の記事では、腸の領域で注目を集めている小腸内細菌異常増殖症(SIBO)に対する食事療法について詳しく紹介いたします。
SIBOとは?
SIBOは小腸内に過剰な数の細菌が存在し腹痛、下痢、膨満感などの消化器症状を引き起こす状態と定義されています。
通常、小腸内の膵酵素や腸の蠕動運動など様々な体の働きによって細菌の数は一定に抑えられていますが、様々な理由によりその働きが失われることで細菌の数が増殖すると考えられています。
また過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)などの病気を抱える方での発症の割合が高いのも特徴です。
詳細は以下の記事をご確認ください。
SIBOに対する治療の第一選択は抗生物質になりますが、同時に食事療法にも注目が集まっています。
SIBOに対する食事療法
SIBOに対する食事療法については様々な研究が行われているものの、現在科学的根拠を元にガイドライン等で推奨されている食事療法がないのが現状です(1)(5)。
ここではSIBOに対する食事療養として注目を集めている低FODMAP食、プロバイオティクス、食物繊維について、その背景とエビデンスを紹介します。
低FODMAP食のSIBOに対する効果
FODMAPは発酵性の糖鎖が短く消化器症状に影響を与えやすい炭水化物の総称です。
このFODMAPが含む食品は健康な方では問題なく消化・吸収されますが、過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)の一部の患者さんでは消化器症状に繋がることが研究で解明されてきています。
低FODMAP食はこれらのFODMAPを取り除き、消化器症状が改善することを確かめた後に、FODMAPが含まれる5つのグループが含まれる食事を再導入し、どのFODMAPグループが消化器症状に影響を与えるのかを確認する食事療法です。
低FODMAP食はIBSやIBDで寛解期にいる患者さんに対して消化器症状の改善効果が確認されています。低FODMAP食の詳細については以下のリンクをご確認ください。
低FODMAP食のSIBOへの効果が注目される理由としては、IBSの下痢型でSIBOの合併が多く見られること、そして低FODMAP食がガスや膨満感などの症状に効果があることがあります。
しかしながら現時点でまだ低FODMAP食のSIBOへの効果は科学的には確認されていません。
これまで12の研究で低FODMAP食と腸内細菌に関する関連が示唆されていますが、研究によって異なる細菌の増加・減少が見られており統一的な見解が得られていません。(1)
さらにSIBO患者を対象とした低FODMAP食に関する研究結果はまだ公表されていないのが現状です。
現在欧米の臨床現場においてSIBOに対して最も活用されている食事療養は低FODMAP食と言われていますが、今後更なる研究が期待されています。
プロバイオティクスのSIBOに対する効果
プロバイオティクスを用いたSIBOの研究は積極的に行われています。
SIBOに対するプロバイオティクスの投与が興味を持たれている背景としては、プロバイオティクスを投与することによって腸内細菌の構成が変わり、その結果症状が改善する可能性があると考えられているからです(2)。
実際に複数の研究をまとめて解析した研究では、プロバイオティクスが水素の生成を減らすことが示唆されましたが、対象となった研究の多くが小規模で質も十分ではなかったと指摘されています(3)。
また別の研究ではプロバイオティクスによりSIBOや消化器症状が引き起こされたことも報告されており(4)、まだ効果があるのか、もしくはSIBOを悪化させるのかはわかっていないことが現状です。
食物繊維のSIBOに対する効果
食物繊維のサプリメントについてはグアーガム(グアー豆から抽出されたガラクトマンナン多糖類)を用いたSIBOに対する研究が2010年に行われました。
この研究では77名のSIBO患者を抗生物質投与群と抗生物質投与+グアーガム群に割り付けて効果の検証を行いました。その結果、eradication rate(根絶率)はグアーガムを加えた群で高いことが示唆されました(5)。
しかしこの研究以外では食物繊維のSIBOに対する効果を検証した研究はなく、試験の設計も不十分な点が多いと考えられていることから更なる研究が求められています。
まとめ
以上、今回はSIBOに対する食事療法について紹介しました。
SIBOについてはまだ病態そのものが解明されていないことも多いことから食事療法についても十分な研究は行われていないのが現状です。
一方で、IBSやIBDの患者さんの中で関心が非常に高い領域であり、今後更なる研究の発展が期待されます。
食事に関しても今回の記事を参考にしながら主治医の先生と相談し、症状をコントロールするベストな方法を模索していきましょう。
参考文献:
(1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36014888/
(2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32023228/
(3)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28267052/
(4)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6006167/
(5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20937045/
監修者
今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師
消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。
執筆者
宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。