お腹の調子が気になって食べることが不安ー過敏性腸症候群(IBS)、潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)と回避・制限性食物摂取症(avoidant/restrictive food intake disorder:ARFID)ー

監修者:今井 仁(東海大学健康管理学|消化器内科 講師)
執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)

今回は過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)患者さんで近年研究が進められている回避・制限性食物摂取症(avoidant/restrictive food intake disorder:ARFID)と呼ばれる摂食障害についてその概要やIBS、IBD患者さんにおける頻度、そして対応などについて説明します。

回避・制限性食物摂取症/ARFIDとは?

ARFIDは2013年に初めてメンタル疾患の診断に含まれた比較的新しい疾患です。具体的には食事による消化器症状などを恐れて食べ物を避ける傾向があり、以下のうち一つ以上が当てはまる場合にARFIDが疑われます。*1

  • 急激な体重減少
  • 栄養不足/栄養不良
  • サプリメントなどの補助栄養の服用が必要
  • 社会活動などへの参加や他者との交流などが難しい

また経済的な理由などで食事へのアクセスが制限されている、体重や体型に関心がある、他の精神疾患がある場合はARFIDには該当しない可能性が高いと考えられます。

ARFIDのリスクが高い消化器疾患患者さんの割合は?

IBDやIBSとARFIDについてはまだ十分な研究が行われておらず、実態の把握等が進められている状況です。

ある報告ではアメリカの消化器内科クリニックの外来消化器患者の中でおよそ19%がARFIDのスクリーニングに該当し、IBS患者さんではIBS患者さん以外と比べて該当者が2倍だったとのことでした。*2

また161名のIBD患者さんを対象としたARFIDに関する研究では、17%がARFIDリスクの高く、それらの患者さんでは「好き嫌いがある」、「食欲不振」、「食事が症状悪化等につながることを恐れる」などのスコアが高いことがわかりました。*3

なお、ARFIDリスクが高い患者さんでは低栄養のリスクが高い傾向にありました。

この研究から比較的多くのIBD患者さんがARFIDに該当する可能性が示唆されました。

ARFIDが懸念される場合の対応は?

IBSやIBD患者さんでARFIDのリスクが高い患者さんへの対応についてはまだ確立されていない部分が多い印象です。

ARFIDに関わらず消化器疾患患者で摂食障害の可能性がある患者さんへの対応については、消化器専門に加え、管理栄養士や臨床心理士等を含めた多職種間の連携が不可欠であると考えられています。*1
具体的にどのように対応するのかについては今後さらなる研究や検討が期待されます。

まとめ

今回はIBSやIBDとARFIDについて紹介しました。ARFIDはまだ新しい概念で特にIBDやIBSとの関係については研究途上ですが、体重減少や栄養不良につながるリスクもあるので医療従事者、患者双方が頭に入れておく必要があると思います。

もし過度に食事に不安を感じられる方は主治医の先生にぜひ相談してみましょう。

監修者

今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師

消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。

執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士  

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

参考文献
  1. McGowan A, et al. Irritable Bowel Syndrome and Eating Disorders: A Burgeoning Concern in Gastrointestinal Clinics. Gastroenterol Clin North Am. 2021 Sep;50(3):595-610. 
  2. Harer KN. Irritable Bowel Syndrome, Disordered Eating, and Eating Disorders. Gastroenterol Hepatol (N Y). 2019 May; 15(5): 280–282.  
  3. Yelencich E, et al. Avoidant Restrictive Food Intake Disorder Prevalent Among Patients With Inflammatory Bowel Disease. Clin Gastroenterol Hepatol. 2022 Jun;20(6):1282-1289.e1.