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世界的に注目される「地中海食」と庄内料理の共通点― 自然と共生する食文化がもたらす健康へのヒント ―

執筆者:宮﨑拓郎(米国登録栄養士)

前回に引き続き10月26日に山形の荘内病院まつりで開催した特別講演イベント「腸内細菌と庄内の食から学ぶ健康」の内容を一部ご紹介します。

近年、世界的に「地中海食(Mediterranean diet)」が注目を集めています。地中海沿岸諸国で伝統的に食べられてきたこの食事様式は、健康や長寿との関連が多くの研究で示され、2010年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されました。

本講演では、米国登録栄養士としての知見と、庄内地域の食文化に触れて感じた共通点をもとに、「自然と共生する食の力」についてお話ししました。

地中海食とは何か

地中海食とは、スペイン・イタリア・ギリシャなど地中海沿岸の国々で受け継がれてきた伝統的な食事スタイルを指します。オリーブオイルを主な脂質源とし、魚介類、野菜、豆類、ナッツ、果物、全粒穀物を中心に構成されるのが特徴です。

これらは地元で採れる旬の食材を活かした料理であり、「素材の持ち味を尊重する」という点に大きな価値が置かれています。

代表的な料理には、イタリアのアクアパッツァやパスタ、ギリシャのムサカやヨーグルト料理、スペインのパエリアやタパス、モロッコのタジンなどがあり、国によってバリエーションは異なりますが、いずれも「自然の恵みをそのままに」活かした調理法であることが共通しています。

病気の予防と改善に役立つ食事

地中海食は、単なる伝統食にとどまらず、科学的にも多くの健康効果が実証されています。
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の発症リスク低下、糖尿病の予防や血糖コントロールの改善、さらには認知機能の維持やアルツハイマー病予防など、幅広い疾患に対して有益な影響が報告されています。


 これらの効果は、オリーブオイルに含まれるオメガ3脂肪酸やポリフェノール、野菜や果物に豊富な抗酸化物質、豆類・全粒穀物に多い食物繊維などによって、炎症や酸化ストレスを抑え、血管機能や腸内環境を改善することに起因します。

特に注目されているのが腸内細菌への影響です。食物繊維を多く含む食事を続けると、腸内で短鎖脂肪酸(SCFA)が産生され、腸のバリア機能を高め、炎症を抑える効果が確認されています。これは、炎症性腸疾患(IBD)や過敏性腸症候群(IBS)など、腸に不調を抱える人にとって重要な知見です。

庄内料理と地中海食の共通点

では、日本の伝統食の中で、地中海食と通じるものはあるでしょうか。

実は、山形県庄内地域の食文化には、驚くほど多くの共通点が見られます。庄内は豊かな山と海に囲まれ、四季折々の自然の恵みを活かした料理が根づいています。
山菜や野菜、魚介類、発酵食品など、「食材の種類」に加えて「地元でとれた旬の食材を活かす」という姿勢は、地中海の食文化と非常に似ています。

山菜や薬味(山椒、木の芽、みょうがなど)で季節の香りを添え、過度な味付けを避ける。この考え方は、オリーブオイルやレモン、ハーブなどで素材を引き立てる地中海料理と通じる哲学だと感じます。

地中海食を実践するためのポイント

現代の生活に地中海食を取り入れる際に重要なのは、「バランス」と「続けやすさ」です。1食の半分を野菜と果物、4分の1を全粒穀物、残りを魚介や豆類などの良質なたんぱく質にすることが理想です。脂質はバターではなくオリーブオイルやキャノーラオイルを使い、水やお茶などの無糖飲料を中心に。間食にはナッツや果物を活用するのもおすすめです。

一方で、IBDやIBSなど腸に不安を抱える方は、野菜の食べ方にも工夫が必要です。繊維の多い部分を除き、柔らかく茹でたり、細かく刻んだりすることで、消化管への負担を軽減できます。

特に体調が優れないときは生野菜を避け、加熱して食べることを心がけましょう。これは「食べ方」そのものを自分の体に合わせて調整する、まさに“個別化栄養”の考え方でもあります。

自然と共に生きる食の知恵

地中海食も庄内料理も、「健康に良いから食べる」というより、「自然と共に生きる中で生まれた食文化」と言えます。地元で新鮮な食材を使い、家族や仲間と囲む食卓を大切にする。社会的つながりを含めたライフスタイル全体が、心身の健康を支えています。
私自身、IBD患者さんや食事制限のある方と接する中で感じるのは、「制限」よりも「自分に合った楽しみ方」を見つけることの大切さです。食は体調を整える側面もありますが、同時に人生を豊かにする文化でもあります。
 

庄内の食卓と地中海の食卓に共通するのは、「自然のリズムに寄り添い、体にも心にもやさしい食事」。その知恵を、私たちの日常にも少しずつ取り入れていくことで、より健やかでしなやかな暮らしが実現できるのではないでしょうか。

メタジェンセラピューティクス様の取り組み

今回イベントを共催いただいたメタジェンセラピューティクス様は、「つるおか献便ルーム」の開設を皮切りに、献便を中心とした新たなエコシステムの中心地となる鶴岡市を含む庄内地方の地域振興をはじめ、腸内細菌や食に関する啓発活動、一般市民や患者さんコミュニティの活性化など、「患者さんの願いを叶え続ける」ために活動を続けています。

また献便にご協力いただける「腸内細菌ドナー」を募集中とのことです。応募は下記特設サイトよりお願いいたします。

(※山形県庄内地方、または首都圏にお住まいの方を対象としています)

■腸内細菌ドナー募集「うんち贈ろう」特設サイト

うんち贈ろう

健康な人のうんちを集め、難病患者の治療に役立てる日本初のプロジェクト。腸内細菌ドナーを山形県鶴岡市と東京都で募集中。

■「つるおか献便ルーム」Instagramアカウント

献便ルームに関する最新情報を投稿中!

https://www.instagram.com/chomusubi_tsuruoka

執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士

Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

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