
文責:宮﨑拓郎(米国登録栄養士、公衆衛生学修士)
今回の講演では、慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授であり、メタジェン代表取締役社長CEO兼メタジェンセラピューティクス創業者・最高科学顧問である福田真嗣先生に、「腸内細菌が変える医療と健康の未来」をテーマにご講演いただきました。
先生は、研究者としての豊富な知見をわかりやすく、そしてユーモアを交えながら伝えてくださり、会場は終始引き込まれていました。
- 腸内細菌叢の多様性と「個人差」
- 腸内細菌叢とがん治療の意外な関係
- 難病を救う「腸内細菌叢移植」と献便ルームの取り組み
- 食事から整える腸内環境と短鎖脂肪酸
- パーソナライズド食品と“おなかの学び場”
- 「健康な人が健康であり続ける」社会へ
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腸内細菌叢の多様性と「個人差」
講演の冒頭、福田先生は「皆さんのうんちが、難病の患者さんを救うかもしれません」と語りかけられました。印象的なこの一言には、腸内細菌が持つ驚くべき可能性が込められています。
便の中には私たちの健康を左右する多様な腸内細菌が存在しており、それらが“新たな医療やヘルスケアを生み出す資源”となり得ることから、先生はそれを「茶色い宝石®︎」と呼ばれています。
私たちの腸の中には、約1,000種類・40兆個もの腸内細菌がすんでいます。この集団を腸内細菌叢と呼びますが、腸内細菌叢の構成は人それぞれ異なります。一方、一人の人の腸内細菌叢のバランスは健康であれば大きく変化することはなく比較的安定していることが分かっています。

福田真嗣 実験医学41:1682, 2023
この腸内細菌叢の「個性」は、食べたものの代謝のされ方や薬の効き方にも影響します。福田先生は、「腸内環境の違いが“同じ食事でも効果が違う”理由のひとつ」と説明され、日常生活での重要性をわかりやすく伝えてくださいました。
腸内細菌叢とがん治療の意外な関係
がん治療薬「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」の効き方が腸内細菌叢によって左右される研究が紹介されました。同じ薬でも効く人と効かない人がいる理由の一つが、腸内環境の違いだというのです。
また、腸内細菌叢移植(FMT)によってICIの薬効が高まる事例も報告されています。これらのデータは、腸内細菌叢が医療の最前線で注目されていることを示しています。
難病を救う「腸内細菌叢移植」と献便ルームの取り組み
福田先生は先進医療Bとして2022年に厚生労働省に承認され、2023年1月から2025年8月にかけて順天堂大学とメタジェンセラピューティクスとが共同で実施した潰瘍性大腸炎の患者さんに対する抗菌剤併用の腸内細菌叢移植療法の最新の結果について紹介されました。FMTにより70.3%の患者さんで症状の改善、45.9%の患者さんで2ヶ月後の寛解導入が認められました。これは既存薬と同等かそれ以上の効果と捉えることができます。
こうした成果を社会に広げるため、メタジェンセラピューティクス社では日本初の”献便”施設「つるおか献便ルーム」を設立し、山形県庄内地方在住者向けの献便をサポートするサービス「ちょうむすび」を立ち上げました。健康な人の便を安全に保存・活用する仕組みを整え、将来的には自分自身の便を“未来の医療資源”として保存できる社会を目指されています。

食事から整える腸内環境と短鎖脂肪酸
福田先生は、腸内環境を整えるための食事の重要性についても触れられました。食物繊維やオリゴ糖を摂取することで腸内細菌が「短鎖脂肪酸」をつくり出し、それが免疫機能の向上、便秘改善、抗肥満、持久力向上、花粉症予防、肌質改善など多くの健康効果をもたらすことが紹介されました。

一方で、腸内細菌叢のタイプは人によって異なるため、同じ食品でも効果に差が出ることがあります。先生は、「一人ひとりに合った食の提案=腸内環境タイプ別アプローチ」が今後の健康づくりの鍵になると強調されていました。
パーソナライズド食品と“おなかの学び場”
福田先生が代表を務めるメタジェン社では、カルビー社やサイキンソー社と共同で「Body Granola」という商品を開発。検便キットで腸内環境を調べ、その結果に合わせたグラノーラを届けるというパーソナライズドな食の仕組みを実現しています。また同様のコンセプトで明治と共同開発した「Inner Garden」では、自分の腸内細菌を調べ、結果に合わせたオリゴ糖入りドリンクをリコメンドするパーソナライズド飲料も展開されています。
さらに、腸内細菌に関する最新の知識を学べる場として「onakademy(オナカデミー)」というオウンドメディアも紹介されました。ここでは「短鎖脂肪酸って何がすごいの?」「乳酸菌とビフィズス菌の違い」など、一般の方にも親しみやすい記事を通して、腸内細菌の世界を学ぶことができます。

「健康な人が健康であり続ける」社会へ
講演の最後に福田先生は、「病気を治すだけでなく、健康な人が病気にならない社会をつくることが大切」と語られました。
研究者としての真摯さと、社会実装への情熱が伝わるご講演であり、腸内細菌叢がもたらす未来の可能性を多くの参加者が実感する時間となりました。

福田 真嗣先生
博士(農学)、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。19年より同特任教授。2015年に株式会社メタジェンを設立し代表取締役社長CEOに就任。2020年にメタジェンセラピューティクス株式会社を共同創業。専門は腸内デザイン学。学生時代から25年以上一貫して腸内細菌叢の研究を行っており、基礎研究と社会実装の両輪で病気ゼロ社会の実現を目指している。
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執筆者

宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。

