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2026年4月2日

潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)患者が知っておきたいバイオ医薬品・バイオシミラーの基礎知識と治療・検査の選び方

執筆者:竹内 建 (辻仲病院柏の葉 消化器内科部長・IBDセンター長)

潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)の治療の選択肢はここ数年大幅に増えてきました。「どのような選択肢があるのだろう?」「どのくらい費用はかかるの?」「バイオ医薬品やバイオシミラーという言葉の意味は?」などの疑問も多いと思います。今回は2026年3月15日に開催された、「『IBDとお金』シリーズ第2回 潰瘍性大腸炎・クローン病(IBD)のバイオ医薬品・バイオシミラー〜保険承認とは?治験とは?〜」の内容をもとにIBDにおける最新の治療動向や検査の選択肢、バイオ医薬品・バイオシミラーなどについて詳しく紹介します。

増え続けるIBD患者数

現在、日本国内で潰瘍性大腸炎やクローン病といったIBDの患者数は右肩上がりに増加しています。

【潰瘍性大腸炎
医療受給者証の交付件数は16万人を超えています 。発症のピークは男性で20〜24歳、女性で25〜29歳と、まさに進学、就職、結婚といった人生の基盤を作る時期と重なります。

(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」資料より竹内作図)

【クローン病
こちらも4万人近くまで増加しており、若年層に多いのが特徴です。

(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」資料より竹内作表)

IBDは遺伝的な素因に加えて、食事や感染などの環境因子、腸内細菌の変化などが複雑に絡み合い、免疫異常が起こることで発症すると考えられています。

「見えない炎症」を可視化する最新の検査方法

IBDの治療では、下痢や腹痛などの症状がない「寛解」の状態でも、腸の中では炎症がくすぶり続け、ダメージが蓄積していくことがあります 。特にクローン病では、炎症の再燃と寛解を繰り返すことで、狭窄(腸が狭くなる)や瘻孔(穴が開く)といった不可逆的な損傷が進み、手術が必要になるリスクが高まります。

これを防ぐためには炎症の状態を丁寧に把握する必要があり、患者さんの負担が少ない検査方法であるバイオマーカーが普及してきています。

・便中カルプロテクチン (FC)
便を調べることで、腸の炎症を直接確認できる指標です。全身状態を見るCRP(血液検査)とは異なり、腸の炎症に特化しているのが特徴です 。

・LRG (ロイシンリッチα2グリコプロテイン)
潰瘍性大腸炎やクローン病の有効な血清マーカーです。血液検査でCRPが正常範囲内であっても、腸の炎症を捉えられる場合があります。

・PGE-MUM
尿で測定できる、潰瘍性大腸炎の新しいバイオマーカーとして期待されています。

これらの指標を使い、単に「お腹が痛くない」という短期目標だけでなく、「内視鏡的に傷が治っている(粘膜治癒)」、さらには「QOL(生活の質)の正常化」という長期目標を目指すのが現在の治療のゴールとして広く認知されています。

バイオ医薬品などを含むIBD治療の進化

IBDの治療薬は、この20年で劇的に進化しました。1998年のインフリキシマブ(レミケード)の登場を皮切りに、多くのAdvanced Therapy(アドバンスドセラピー:バイオ医薬品やJAK阻害剤など)が承認されています。

バイオ医薬品は、有効成分がタンパク質由来(成長ホルモン、インスリン、抗体など)、生物由来の物質(細胞、ウイルス、バクテリアなど)により産生される医薬品のことです。化学合成した医薬品より複雑で巨大な分子を持つことが特徴です。

そして、生物が由来となることや複雑な製造工程が必要となることで製品ごとに品質のばらつきが生じる可能性があり、そのばらつきが有効性や安全性に影響を与えない範囲内に収まるように製造が厳格に管理されています。

厚労省:バイオシミラーの現状について(平成27年7月23日)改変

また投与方法も変化してきています。 かつては病院で数時間かけて点滴を受けるのが当たり前でしたが、現在では「自己注射」ができる薬や、新しい「飲み薬」の開発が進んでいます 。これにより、通院の負担が減り、仕事や学業と治療を両立しやすい環境が整いつつあります。

一方で、これらの新しいお薬は非常に高価であるという現実もあります 。
例えば、維持療法で使用されるバイオ医薬品の薬価は、1回あたり数万~数十万円となることもあります。

※各医薬品添付文書と2025年度薬価をもとに竹内作成

ここで重要になるのが、「バイオシミラー(BS)」という治療選択肢です。

バイオシミラーとは、特許が切れた先行バイオ医薬品(新薬)と同等の品質、安全性、有効性を持つものとして開発された「バイオ後続品」のことです。

「ジェネリック医薬品(後発品)と同じでしょ?」と思われるかもしれませんが、実は大きく異なります。

ジェネリック
アスピリンのような単純な構造の「化学合成医薬品」のコピー。分子量は180程度と小さく、構造を完全に再現できます。

バイオシミラー
生物の細胞(タンパク質)から作られる巨大で複雑な分子(抗体など)を再現。分子量は約15万にも達し、製造には高度な技術が必要です。

厚労省:バイオシミラーの現状について(平成27年7月23日)改変

バイオシミラーは、先行品と「同等・同質」であることを証明するために、品質分析だけでなく、実際に患者さんを対象とした比較臨床試験(治験)を行い、厳格な審査を経て厚生労働大臣に承認されています。つまり、「バイオ医薬品と同様の安全性が確立されている」ことが科学的に確認されているのです。

バイオシミラーの薬価は、原則として先行品の70%に設定されています。これにより、患者さん自身の窓口負担(高額療養費制度の枠外など)が抑えられるだけでなく、圧迫されている日本の公的保険制度を持続させることにもつながります。

まとめ:これからのIBD治療との付き合い方

本記事では、IBDにおける最新の治療動向からバイオ医薬品・バイオシミラーまで詳しく解説しました。

  1. IBD患者は増加しており、治療法は多様化している。
  2. 新しい治療法は素晴らしいが、医療費を圧迫している側面もある。
  3. バイオシミラーの普及は、これらの問題を解決する一助になる可能性がある。

IBD治療の流れは「通院中心」から「自宅で治療」に大きく変わってきていますが、治療自体は長い付き合いになります。だからこそ、お薬の効果や副作用だけでなく、長く治療を続けていくという視点も含めて、納得のいく治療を選択することが大切です。

「バイオシミラーに切り替えても大丈夫かな?」と不安に思うことがあれば、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。より多くの患者さんが、最新の治療にアクセスし、自分らしい毎日を送れるようになることを願っています。

執筆者

竹内 建
辻仲病院柏の葉 消化器内科部長・IBDセンター長


医学博士。浜松医科大学卒、ロンドン大学研究員を経て、浜松南病院消化器病・IBDセンター副院長や東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座消化器内科分野講師として臨床・教育に従事。2019年より現職。

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