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IBSのための認知行動療法②「考え方に働きかける」

執筆者:菅谷 渚(博士[人間科学]、公認心理師、臨床心理士)

前回のコラムでは、IBS改善のためによく使われる心理療法の一つとして認知行動療法を簡単にご紹介しました。認知行動療法はその名の通り、否定的な考え方や過度な注意の向け方といった「認知」や生活の支障となるような回避や対処といった「行動」に取り組むものです。今回は「考え方」に働きかける方法をご紹介します。

前回のコラムをまだお読みでない方は、
https://learn.goodtecommunity.com/special_list/128/ 
をご覧ください。

思考記録法(コラム法)で考え方を整理する

考え方にアプローチする代表的な技法に思考記録法(コラム法)があります。

これは、そのときの状況や気分、頭に浮かんだ考えを書き出し、その考えを裏づける証拠、逆に裏づけない証拠、気分が楽になる別の考え方などを順番に整理していく方法です。こうした練習を通じて、「つらい気分を少し楽にする考え方」に目を向けられるようになります。


「考え」が気分を左右する

とある状況で嫌な気分になった、という体験は日常的にあるものですが、状況と感情をつなぐ重要な要素の一つが「考え」です。同じ状況でもどのような考えが浮かぶかによって生じる気分は変わるのは想像に難くないかと思います。例えば、前回のコラムからこんな例を引用してみます。

Aさんは仕事中にお腹の調子が悪くなったので何度かトイレに行くために席を立ち、その時に隣の同僚がちらっとこちらを見たことに気づきました。すると、Aさんはすぐに「何度も席を立って奇妙な人だと思われたに違いない」という考えが浮かんで不安や焦りがわき上がってきました。

しかし、もしAさんが「トイレで席を立つなんて周りにとって大した行動じゃない。実際奇妙だと思われた根拠なんてないじゃないか。」と違う考え方にも目を向けられたら、少し気持ちが楽になれたかもしれませんね。

自動思考とは

上の例のように意図したわけでないのにパッと自動的に浮かんでくるような思考は「自動思考」と呼ばれています。
このように嫌な気分を強める自動思考からもっと合理的で楽な考え方(適応的思考などと呼ばれています)へと柔軟に目を向ける練習は「認知療法」と呼ばれる心理療法で用いられています

コラム法(7つの要素)

その一つが「コラム法」という方法で、
[1]状況、[2]気分、[3]自動思考、[4]根拠(自動思考の証拠となる事実)、[5]反証(自動思考とは矛盾する事実)、[6]適応的思考(極端でないバランスのよい考え方)、[7]気分の変化
を表に書き込んでいって、気分の改善を図るものです。上のAさんの例を取り上げながらご紹介します。

コラム法のステップ

①「状況・気分・自動思考」を書き出してみましょう

まず、[1]状況、[2]気分、[3]自動思考について下の表の要領で書いてみます。
この作業だけでも自分の心の中で起きていることがよく見えてきて気分が軽くなってくることも多いです。

海の真ん中で地図もなく放り出されて「○×島に行ってきなさい」と言われても、方向が見えずウロウロさまよいますよね。
この作業は心の中の地図を作って気分の改善に向かう道筋を見出すものだとイメージするといいかもしれません。

[1]状況:

どんな出来事・状況に直面して嫌な感情が生じたのでしょうか。「いつ」「どこで」「だれが」「何があったとき」「自分はどうしたか」…相手に伝わるよう話すつもりで書いてみます。

[2]気分:

その時生じたあなたが解決したい気分はどんな種類のものでしょうか?憂うつ、不安、怒り、焦りなど色々な種類があります。1種類とは限らないので、その時に生じた嫌な気分を思いつくだけ書いてみましょう。そして、それぞれの気分は0~100点(0:まったくない、100:自分の知る限りでもっとも強い)で評価します。自動思考と混同しがちですが、気分は「憂うつ」のように文章ではなく1単語で言えるようなものと考えるとわかりやすいです。

[3]自動思考:

嫌な気分が生じる直前に、頭に浮かんだ考えを書き出します。

②「根拠」と「反証」を整理してみましょう

次に[4]根拠、[5]反証について考えてみます。

[4]根拠:

自動思考の証拠となる事実を書き出します。事実とは実際に起きたことや存在することで、推測や解釈(~だと思う、~のように見える、など)とは区別する必要があります

[5]反証:

自動思考とは矛盾する事実を探して書き出してみます。

③「考え方のクセ」をチェックしてみましょう

また、考え方に極端なところがないか、など「考え方のクセ」について検討します。考え方のクセとしては以下のものがあげられます。

①全か無か思考
あいまいな状態のままにしておけず、ものごとをすべて全か無かで極端な考え方をする。 

②極端な一般化
少ない事実を取り上げて、すべてのことが同様の結果になるだろうと結論づける。 

③結論の飛躍
根拠が少ないにもかかわらず、否定的・悲観的な結論を出してしまう。 

④心のフィルター

物事のネガティブなところばかりに目を向け、他の情報は無視して悲観的に捉える。 

⑤マイナス可思考

良い出来事があっても「偶然」「たまたま」「まぐれ」と捉える傾向。

⑥過大評価・過小評価
自分の失敗や欠点などは極端に拡大してとらえ(過大評価)、一方で、成功や長所は過度に小さく見る(過小評価)。 

⑦べき思考
「~するべきだ」「~するべきではない」と自分のあり方や行動を自分で制限して、その通りにできないと自分を責める。 

⑧自己関連づけ
何か悪いことが起きたときに、自分のせいで起ったのだと自分を責めてしまう。 

⑨情緒的な理由づけ
そのときの自分の感情に基づいて、現実がどのようなものか判断してしまう。(例:自分は今憂鬱だ。つまり人生に希望はないんだ。) 

⑩レッテル貼り
ほんの少しのミスでも「自分(あるいは他人)は何をやってもダメだ」と思うなど、その人の一部の行動や性質を見て人の価値を決めてしまう傾向。

自分の考えには上記の①~⑩のどのクセがありそうでしょうか。(重複することも多いです。)考え方の分析をする上でヒントになるのでチェックしてみるとよいですね。この例だと「結論の飛躍」などもあてはまりそうです。

④「適応的思考」「気分の変化」を記入してみましょう

さいごに[6]適応的思考を検討して、それによって[7]気分の変化がどれくらいあるか記入します。

[6]適応的思考:

[4]根拠と[5]反証で書いた材料を利用しながら、自動思考に代わるバランスのよい考え方を書き出します。「これはくだらないかな」と思っても、まずはどんどん書き出すことをお勧めします。そんなアイデアの中に大事なヒントが隠れていることもあるのです。

[7]気分の変化:

適応的思考をしてみると、[2]で書いた気分はどれくらい変化するでしょうか。0~100点(0:まったくない、100:自分の知る限りでもっとも強い)で評価します。

まとめ

もちろんコラム法はお腹のことだけでなく、「ついネガティブな考えで頭がいっぱいになって悩まされてしまう」という場合も活用できます。ただ、「ネガティブ考えをなくさないと!」とこだわる必要はなく、柔軟に気分が楽になる考え方にも目を向けることを目指すとよいです。

また、実際取り組んでみて気分がすぐに改善されなくても焦らなくて大丈夫です。このような作業は日常的にやっている人の方が少ないですし、最初からうまくいかないのは当然です。気楽にじっくり自分のペースでやることが大切です。

自分でコラム法に取り組むための書籍もいくつか出版されていますし、コラム法を含む認知行動療法はいくつかアプリも普及しています。場合によってはこの方法に取り組んでみたいことを主治医に相談してみるのも良いかもしれません。

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執筆者

菅谷 渚
博士[人間科学]|公認心理師|臨床心理士

労働安全衛生総合研究所 産業保健研究グループ 研究員
横浜市立大学医学部公衆衛生学教室 客員准教授
労働者における過敏性腸症候群やストレスがかかわるホルモンなどについて研究してきました。

参考文献:

・「心理士監修|コラム法とは?やり方やワークシート、認知行動療法の理論、実践アプリをご紹介」 藤本志乃 監修、コグラボ(株式会社Awarefy)

https://www.awarefy.com/coglabo/post/column_technique#index_2diRR2PQ

・「こころのスキルアップ・トレーニング」 大野 裕 監修
https://www.cbtjp.net

・「心が晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳」 大野 裕 著、創元社

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