執筆者:宮﨑 拓郎(米国登録栄養士)
米国登録栄養士の宮﨑です。今回はたんぱく質の摂取について解説したいと思います。たんぱく質は健康な方はもとより、過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎、クローン病(IBD)の方でも不足しがちな栄養素と言われています。この記事ではたんぱく質の概要や必要摂取量とともに具体的なたんぱく質摂取の選択肢について紹介します。
たんぱく質とは?
たんぱく質は炭水化物、脂質と同じく体を動かすためのエネルギーとなる3大栄養素の一つです。
たんぱく質はアミノ酸で構成されています。アミノ酸には20種類あり、体外から摂取する必要のある必須アミノ酸と体内で合成することができる非必須アミノ酸に分けられます。
たんぱく質の摂取が重要と考えられているのはたんぱく質が筋肉、皮膚、臓器などに加え、体内の調整に必要なホルモンや酵素などを構成する上で重要な栄養素だからです。
たんぱく質は1日にどのくらい必要なの?
健常者における1日に必要なたんぱく質量は、日本人の食事摂取基準(2020年版)で定められています。
【 表1 】
たんぱく質の食事摂取基準
(推定平均必要量、推奨量、目安量 : g /日、目標量 : % エネルギー)
( https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586557.pdf )
一方、医療現場では、体重に1kgあたりの必要たんぱく質量をかけて必要たんぱく質量を求めることが一般的です。
例. 体重70kgの場合、 必要たんぱく質量=70x1.0g = 70g
なお、体重にかける係数(上記でいう1.0g)は患者さんの病状や必要たんぱく質量によって異なります。
例えば、IBDの活動期では、消化管の炎症によって消化吸収能力が低下することに加えて、腸管からたんぱく質が漏れ出したり、アミノ酸の代謝が亢進するため、1.0〜1.5g / kg 体重 / 日 たんぱく質が必要とされています。
たんぱく質の摂取方法
食事から摂取する方法と食事以外のサプリメント等から摂取する方法があります。一般的に健常者においても疾患を抱える方であっても、食事から十分なたんぱく質が取れる場合は食事からの摂取を優先し、必要なたんぱく質量を食事から摂取できない場合に栄養剤やプロテインなどを摂取することが推奨されます。
食事からのたんぱく質摂取
食事から摂取する場合、脂質を同時に摂取することを懸念される方も多いと思います。
以下の表にたんぱく質、低脂質の食品をまとめましたのでぜひご参考にしていただければと思います。
【表2】
高たんぱく質・低脂質の食品
潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養
( https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000350338 )
栄養剤やプロテイン
エレンタールなどの栄養剤やプロテインにもたんぱく質やアミノ酸が含まれており、食事で摂取できない場合のたんぱく質を補うことができます。
エレンタールやラコールなど主治医の先生に処方される栄養剤については、処方時に摂取量を指示されるのが一般的です。指示に従って飲むことが大切です。
他方、市販のプロテインについては、プロテインの含有量やたんぱく源、それ以外に含まれる原材料が異なることが多くあります。表1を参照するとともに、必要に応じて主治医や担当の管理栄養士の先生と相談しながら、食事以外のプロテインなどからどの程度たんぱく質を摂取すべきか確認しましょう。
プロテインを選択する上での留意点
プロテインを摂取する上では以下の点に気をつけましょう。
- 過剰摂取
たんぱく質を過剰に摂取することで腎臓の機能低下につながる可能性があることが指摘されています。日本人の食事摂取基準では上限量は基準を設定し得る明確な根拠となる報告が十分でないことから、上限値の設定を行っていません。ご自身の必要たんぱく質から大幅に多いたんぱく質をプロテインなどから摂取することは控えましょう。
- プロテインの原料や添加物
プロテインの中の添加物や大豆たんぱく、乳タンパクが症状に影響を与えることがあります。どの原料や添加物によって消化器症状が引き起こされるかは一人一人で異なることが多いですが、高FODMAPの原料が含まれる場合に消化器症状が現れる場合が多くあります。気になる場合は下記リンクを参考にして、原料や添加物を確認してみましょう。
まとめ
今回はたんぱく質の概要と具体的な摂取方法を紹介しました。多くの方で不足しがちなたんぱく質ですが、食事の際の食材を意識して選択することや必要に応じてプロテイン等を摂取することで必要量を摂取することが可能です。日々の食生活の中でできる工夫を行い、意識してたんぱく質を摂取しましょう。
監修者
今井 仁
東海大学健康管理学|消化器内科 講師
消化器専門医。医学博士。2009年に東海大学を卒業し横浜市立市民病院で初期臨床研修と消化器内科医として勤務開始。東海大学にて博士を取得後2017年米国ミシガン大学に留学し腸内細菌の研究に従事。帰国後も継続して腸内細菌の研究、消化器内科の仕事、健診センターの仕事を掛け持ちし日々研鑽を積んでいる。
執筆者
宮﨑 拓郎
米国登録栄養士|公衆衛士学修士
Academy of Nutrition and Dietetics (米国栄養士会)所属 Registered Dietitian (登録栄養士)。ミシガン大学日本研究センター連携研究員。アメリカミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。大学病院等での勤務を経て米国登録栄養士取得。同大学病院消化器内科で臨床試験コーディネーターとして低FODMAP食の研究等に従事。帰国後コロンビア大学監修クリニックなどで保険適応外栄養プログラム立ち上げ、食事指導などに従事。講談社より「潰瘍性大腸炎・クローン病の今すぐ使える安心レシピ 科学的根拠にもとづく、症状に応じた食事と栄養」などを共著にて出版。ニュートリションケアなど管理栄養士向けの執筆多数。